映画「ヘブン・アンド・アース 天地英雄」
2005年中国
監督:フー・ピン
キャスト:
来栖…中井貴一
李隊長…チアン・ウェン
文殊…ヴィッキー・チャオ
西暦700年。
大唐帝国が極盛期を迎えつつある時期。
西域の仏教国を制する力を持つ奇跡の霊物をめぐる男たちの戦いと友情の物語です。
……とはっきり時代を特定しているにもかかわらず、それほど歴史的事実を忠実になぞっているわけではないようです。
(以下、激しくネタばれ)
エンドクレジット見て、唐の皇帝に配役があったらしい事に気付く。
んー、ひょっとして、最初の方で来栖(中井貴一)に李(チアン・ウェン)を殺すように命じているスダレのような帽子を被った人が、皇帝だったか? 伝令のオッサンかと思ってた。
……しかし、舞台は西暦700年……の皇帝は武則天じゃなかったっけ?
……いやいや、ここは来栖の回想シーンだし、影が薄いことだし(笑)、きっと中宗か睿宗に違いない!
でも武則天の方が、仏舎利の贈り物は喜びそうなんだけどなぁ。
小林幸子のようなド派手な衣装の武則天が出てきたら、映画に花を添えたことであろう…って主人公より目立っちゃダメか(笑)。
というわけで、突厥の欲しがるキャラバンの荷は仏舎利。
それを手にした者は、その神秘の力により、仏教国たる西域36カ国を手中にすることができるのだという。
うわ、めっちゃ胡散くさ。そんな怪しげな霊物に頼らんでも、西域の弱小国など我ら大突厥の偉大なカガンに膝まづくっちゅうに。
要らん。
―――終劇―――
……では始まる前に終わってしまうので、それを持ってると、
「さすが大突厥のカガンでんな~。全世界の秘宝が偉大なカガンを慕うて自分から集まってきよりますわ!(もみ手)」
と支配下の仏教徒の尊敬をより一層得る事ができるので手に入れとくか~、ちょうど目の前を無防備な状態でキャラバンが通り過ぎてることだし~、ということで、自らが動く程度でもないので、その地域の影の実力者である安(ワン・シュエチー)に命じた、ということにしておこう(笑)。
安は、瞳が青いし名前が安だし、おそらくソグド人で異教徒(マニ教徒?)って設定なのだろう。このオヤジ、出てくるたびに衣装が替ってる。で、いつも胡弓を弾いている……キザ~(笑)。
でも、それが嫌みな敵役によく合ってるんだな~。手下にハゲがいるのも敵役のお約束。やたら強くて冷酷非情、お気に入りのキャラの一人。
安に比べると、突厥カガンの使者の将軍さん(イェールジャン)は今一つ間抜けな感じ。役名もないしな……。
それでも、族長でなく「将軍」と呼ばれているのはなかなか好感が持てる。西暦700年ごろの突厥といえば、突厥第二帝国でカガンはカプガン。第二帝国は、唐に滅ぼされる前の突厥とは明らかに違っていて、カガンに強力な権力が集まる中央集権に変わりつつあるところ。そういう国の軍を統べるのはやはり「将軍」なのだ。
甲冑が統一されているせいもあり、突厥の軍隊が統制の取れた正規軍に見えるのが何ともすばらしい。孤城のシーンは、たった数百の騎馬隊が突撃してきただけでもこの迫力か~と感動した。実際の撮影に参加しているのは百名ほどのカザフ人エキストラだそうだ。ああいうのが数千単位でやって来るんだから、当時としてはたいへんな脅威だったわけだ。
でもな~。
トニュククが現役のこの時代に、突厥が本腰を入れて仏舎利を手に入れようとは思っていないのは明らかなのだが、それにしてもやられ過ぎ。
それだけ来栖や李隊長と仲間たちが頑張ったって事なのかもしれないが。
それに比べて、文殊(ヂャオ・ウェイ)は何してたのって感じ。入浴シーンがなかったら、出なくても全く支障ないくらいストーリーに絡んでない。だいたい、来栖や李隊長は文殊の父親の世代なんだから、恋愛の対象にはなりにくいような……。ま、オヤジでも彼女のようなかわいいひとに慕われたらうれしいとは思うが(笑)。
「少林サッカー」や「クローサー」とはまた違ったヂャオ・ウェイが見られる、という観点からすればこれもまたアリ。
来栖は遣唐使として唐に渡ったのなら、唐で学んだことを日本に持ち帰らなければいけないのに、結局は力尽きてしまう。
「これが最後の任務だったのに憐れな……。」
というよりは、最初から帰す気はないんでしょ。皇帝らしき人物は、この任務に成功したら帰すとはっきり言ってない。考えとこって言ってるだけだ。有能な人物だけに、唐の国家機密を知り過ぎちゃったのかもしれないね。辺境の島国に技術流出しちゃまずいもんね。
仏舎利の力でも来栖らが蘇らないのはせめてもの慰めである。それならばあのCG部分はありがたい仏舎利を目の当たりにした敬虔な仏教徒の心象風景だと思うことにしよう。そうだそうしよう。……ただ、心象風景の割には仏教徒でない安や突厥の人々にも見えてるのがやや難(笑)。
かくして、人心を惑わす仏舎利を地の果てに追い払って、突厥はビルゲ=カガンのもとで、最盛期を迎えるのであった。メデタシ、メデタシ。
……って、そういう趣旨の映画でしたっけ?(笑)
ま、それはともかく、現地でロケしてるだけあって風景からしてすばらしいです。
キャラバンが砂漠を抜けて川のほとりを通るとき、明け方もやっている中を鳥が鳴いている場面なんて、モンゴルの朝を思い出してじーんとしました。
たいへん楽しめた映画でした。
(年末進行につき、再放送でお送りしております。)
参考文献:
日記―「ヘブン・アンド・アース」中国滞在録
中井貴一・著
健さんといえば、中井貴一、「単騎、千里を走る。」で声の出演をしてますね。
「鬼が来た!」の香川照之にも事前にお話を聞いていたそうですが、それでも想像を絶する環境だったそうです(笑)。
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コメント
やはりこの作品から着手なのですね(^^)。
これから読ませていただきます&ちょくちょく寄らせていただきまする。
投稿: 蒸しぱん | 2007年1月14日 (日) 23時45分
いや~、だって突厥が出てくる映画ってそんなに(全く?)ないし、これからもあるかどうかわからないじゃないですか~。
でわでわいろいろ指摘してくだされ~。
投稿: 雪豹 | 2007年1月15日 (月) 00時00分