映画「デルス・ウザーラ」
1975年ソ連
監督:黒澤 明
キャスト:
ウラジーミル・アルセーニエフ…ユーリー・ソローミン
デルス・ウザーラ…マキシム・ムンズク
これは、ヘディンが楼蘭を掘ったり、コズロフがカラホトを掘ったりしていた頃の話。
デルスはゴリド(現在は自称に基づきナナイまたはホジェンという)だが、ここではあまり重要でなく、「先住民=無垢の自然の子、ロシア人=知識先行の都会人」という図式で描いている訳ではない。アルセーニエフだって筋金入りの探検家・軍人で、ひ弱な都会の学者ではないのだから。
第一部…1902年。
ウスリー地方を探査するアルセーニエフの一行は、あるときタイガの中で何とも言いようのないいやーな感じがして、その日は野営することにした。木の形さえも不気味に思いながら寝付かれないでいると、何かが近づいてくる音がする。
「熊か?」
と緊張するアルセーニエフ等の前に
「撃つな。わし、人間。」
と言って出てきたのがデルス。トコトコっと近づいてきて、自分の家のように当然のようにたき火の前に座ってキセルをふかす。しかもメシを所望する。
見た目はちっこいおっちゃんで、いつもてけてけ動いていて、威厳もへったくりもないので兵士たちは最初少々馬鹿にしていたが、タイガについての知識や鋭い観察力、銃の腕前、利他的な行動等々に誰もが尊敬するようになっていた。
ハンカ湖のシーンがものすごい。
ハンカ湖は東京湾の二倍くらい(目測で)の大きさの湖。アルセーニエフは兵士たちに荷物を預けて氷結した湖面をデルスと二人で調べているうちに、強風が足跡を消し、道を見失ってしまう。
「方向はあっているのだが。」
とアルセーニエフは言うが、ああいう真っ平らなところでは方向があっていても、角度が1度違うだけでとんでもない所に出てしまうのだ。しかも、日没が迫りどんどん風が強くなっていく。見ているこちらの背中の毛まで逆立った。
第二部…1907年。
再びウスリー地方の探査にやってきたアルセーニエフ。
デルスに会えるかな?会えるかな?と期待しているんだけど、ちょっと待て。北海道と比べてこんなに広い地域でバッタリ会うってあり得ないでしょうが(笑)。
でも、まぁ、噂はデルスにも届いたんだろう、再会することができた。
しかし、一見、荒々しい自然は以前と変わりないように見えるのだが、中国人の仕掛けた罠に出くわしたり、フンフーズ(馬賊)と遭遇したり、確実に人間の痕跡がタイガを浸食していた。トラ(デルスは「アンバ」と呼んでいる)が探検隊につきまとってくるのもたぶん、それと関係している。
5/23追記:フンフーズは漢字で紅■子。
※■は、髪という字の友の代わりに胡を書いた字
野生の動物にとって、年老いて五感が衰えたり怪我をして動けなくなるという事は、即、死を意味する。しかし、人間は街を築くなどして弱い者でも生きられるように工夫してきた。だから、視力が衰え自分で獲物が捕れなくなったデルスがハバロフスクで暮らすというのは、人間らしい行動だと思う。
しかし、森の人・デルスは移植できない植物のように、街の暮らしに堪えられない。かといって自然の法則に従う限り、タイガへ戻ったところで生きていくことは許されないのだ…。
********
最初、黒澤監督は北海道でロケするつもりでシナリオ書いたっていう話だけれども、それって北海道に置き換えるってことなのかな? でも翻案しちゃったら、アルセーニエフの原作の意味ないじゃん。極端な話、例えば現代の下町に置き換えても良いような普遍的な主題の話なのだから。
アルセーニエフ原作を現地でロケして現地の役者で撮れて本当によかった。
…ムンズクはトゥバ人で現地の人でないじゃん、というツッコミはこの際ナシの方向で(笑)。
マキシム・ムンズクが出演している他の作品→「シベリアーダ」
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