映画「ロマノフ王朝の最期」【デジタル完全復元版】
1975-1985年ソ連
監督:エレム・クリモフ
音楽:アルフレッド・シュニトケ
キャスト:
グレゴーリィ・ラスプーチン…アレクセイ・ペトレンコ
ニコライII世…アナトーリィ・ロマーシン
アレクサンドラ・フョードロヴナ…ヴェルタ・リーネ
アンナ・ヴィルゥボヴァ…アリサ・フレインドリフ
フェリクス・ユスポフ…アレクサンドル・ロマンツォフ
「鬼の来た道」にトゥチャ(チベット・ビルマ語族イ語系のことばを話す民族)の儺(おにやらい)で祀られる神が、皇帝のお墨付きをもらって格の高い神になった、という話を聞いて、
「どんだけ偉いんじゃい、皇帝! 妖怪界にも顔がきくんかい!」
と苦笑した。それは中国の話だが、常に皇帝は聖人君子で政治が悪いのは取り巻きが極悪だからだ、みたいに考えたがる傾向はロシアでも結構あるのかもしれない。
ロシアで偽ドミートリィっていうのだけでも「ん?」という感じなのに、偽ドミートリィには一世と二世がいるってのはなかなか理解しがたい話だ。
…権力を握ったんなら自分で皇帝になって帝室を興せば良いのに、と思うんだけれど?
「黄金氏族がなんぼのもんじゃあ! オレはエセン様じゃあ!」
みたいに。
ロシアの場合、「皇帝」というものの周りに心理的な聖域みたいなもんがあったのかもしれないなー。
それはそれとして。
物語は、1916年のロシア、サンクトペテルブルク。
(ものすごくネタバレ。でもまぁ、歴史物だから、結末は皆さんご存じの通りでっせ。)
第1部
戦争、革命…ロシアは混乱を極め政府は事態を収拾する能力を失いつつあった。
皇帝のニコライ2世は少々性格の弱い人物のようで、散々な戦況報告を聞いている途中で隠し扉から逃げ出してしまう。相手が話しているのに!
まー、例えばイヴァン雷帝だったら極東の発展途上国の島国で警官に襲いかかられても、一睨みで相手は即死するくらいのオーラ(それじゃヴィイだ…笑)を持っていただろうが、ニコライ二世はあっさり刺されちゃうしねぇ…(大津事件)。
子供部屋に逃れてからも、皇后アレクサンドラ・フョードロヴナが、病気の皇太子を治したラスプーチンにすっかり心酔しているのを見ていられずに、自分の趣味の暗室に閉じこもってしまうのだ。
グレゴーリィ・エフィーモヴィチ・ラスプーチン。
ロマの芸人たちとどんちゃん騒ぎをしたり(聖職者なのに!)、きれいな女の人を見るといきなり抱きついたり(人妻なのに!)やることなすことむちゃくちゃだが、首相でさえ、彼からの電話の呼び出し音を聞いただけで死を覚悟する。
皇后が全幅の信頼を置いているために、彼が何かを頼めば通ってしまうからだ。
ラスプーチン自身には何か確たる信念がある訳ではなさそうだが、いろいろなことをやってもらおうと有象無象の輩が群がっている。こいつらがいかにも胡散臭いし生臭い。
社会の底辺の方から、というだけでなく人としてダメダメな所からはい上がってきたラスプーチンのような人には、ついつい共感してしまう(笑)。なので、他の人が見たら違う感想になるかもしれないけど、ここで描かれるラスプーチンは「怪僧ラスプーチン」というフレーズから想像されるバケモノではなく、ただの礼儀作法のなってない田舎者という感じ。ただし、きれいな女の人をみるともうさかりのついた雄犬のように本能のみで動いちゃうけどね。
まぁ、綿密な考証に基づいていると言うことだから、尾ヒレの付いていない姿はこんななんだろうな。とりあえず、緑の血とかは流れてないようだ(笑)。
第1部で一番印象に残ってのは、ニコライ二世の回想中の「血の日曜日」。
雪の積もった真っ白な広場が群衆で真っ黒に埋め尽くされる所からしてもういやーな感じが迫ってくる。
第2部
女性関係にだらしないって事は、そこが弱点でもあるわけで。
そのあたりの罠に引っかかって、ラスプーチンはロシア正教会の名で宮廷への出入りが禁じられてしまう。
それがまた、十字架を押しつけられて、まるで悪魔払いのようだ。
そうなると、ラスプーチンを利用しようとして群がっていた人たちは、すーっといなくなってしまうのだから現金な物だ。本当にバケモノなのはどっちだよ(苦笑)。
ラスプーチンの追放は、ニコライ二世の意向でもあったんだけれど、正教会の権威なんぞで封じられるラスプーチンではない。超自然的な力(!)で皇后の寝室に現れる。
「リング」の呪いのビデオと喪黒福造の「ドーン」を併せたようなパワーで復帰。…ここの映像は本当に不気味。ニコライ二世じゃなくても逃れられないよ~。怖いよ~。
その一方で、どうしてもラスプーチンを皇室から切り離せないのなら、物理的に排除してしまえ、という陰謀が皇帝の威厳がヤツのために貶められたと考える極右政治家プリシケーヴィチも参加して進行中なのだった。
「非人道的手段で目的を達成しても意味がない!」
「殺人は神の意志に反する。」
と反対する国会議員バラショフらを押し切って、
「ロシアのためだ、手段を選んでいる余裕はない!」
プリシケーヴィチは計画を実行に移す…。
懲りないラスプーチンは、またまた女につられて(?)おびき出されてしまう。いい加減学べ。
青酸カリ入りのワインで歓待する家の主人ユスポフ。ところが、ラスプーチンはそれを飲んでも平気で、
「まずい。もう一杯。」
とか言っている(←言ってない言ってない)。
ユスポフが背後から拳銃で撃っても息を吹き返して、とっとと走って行く始末…。
恐怖に駆られたプリシケーヴィチにめった撃ちにされてようやく倒れるラスプーチン(映画中には出てこないが、この後すまきにされて氷結したネヴァ川の氷の下に投げ込まれる。死因はなんと水死だったとかいう話を聞いたことがある…恐るべきパワー)。
しかし、このことによって、プリシケーヴィチの思惑とは逆に、皇帝のまとっていた神性というか、ある種の心理的なストッパーがすべて吹っ飛んでしまったのだろう。
ロシアに聖域なきテロルが支配する時代が到来する…。
参考文献:
うーむ、人気者(笑)。
残念ながらここでは視聴はできないけれど、"Agony"(ロシア語だと「アゴーニヤ」、この映画の原題)というのがこの映画の音楽。
エレム・クリモフ監督の他の作品→「炎628」
アルフレッド・シュニトケが音楽を担当している他の作品→「スターリングラード大攻防戦」「エア・パニック -地震空港大脱出-」
ナレーターのカリャーギンが主演→「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」
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コメント
むおっ! 草原ブログへの道が閉ざされていて、プチ焦った(いつも掲示板の中から来てたから…)。
よく考えると自分のとこのリンクあるっちゅうねん。
掲示板移転っすか?(全然内容と関係ないし)
投稿: マルコ | 2007年2月18日 (日) 00時20分
>プチ焦った
いや~、あまりのSPAMの多さにプチっとな。
ブログだとある程度防御策があるみたいだけど、あの掲示板だと無防備なんで(古いから)。
投稿: 雪豹 | 2007年2月18日 (日) 07時37分
こちらもトラバさせていただきました〜。
投稿: 馬頭 | 2007年2月22日 (木) 06時32分
ありがとうございます~。
投稿: 雪豹 | 2007年2月22日 (木) 12時39分