映画「北極圏対独海戦 1944」
1983年ソ連
監督:セミョーン・アラノヴィチ
音楽:アレクサンドル・クナイフェリ
キャスト:
ベロブロフ…ロジオン・ナハペトフ
チェレペツ…アレクセイ・ジャルコフ
ガブリロフ…アンドレイ・ボルトネフ
ドミトリエンコ…スタニスラフ・サダリスキー
マルーシャ…タチヤナ・クラフチェンコ
シューラ…ヴェーラ・グラゴレワ
ナースチャ…ナジェージダ・ルカシェヴィチ
ソ連・ロシアは陸軍国というイメージがあるせいか、海の戦争を扱った映画は珍しく感じる。
この映画では、長距離爆撃機イリューシンIl-4をベースに製造されたIl-4Tという雷撃機と、その乗組員周辺の人間模様が描かれている。見ただけでは舞台がどこなのかはっきりわからないのだが、物資の輸送にトナカイ橇が使われているシーンがあるので、邦題に「北極圏」とつけたのだろう。海と関わりの深いレニングラード・レンフィルムの作品。原題「雷撃機」。
今日はシューラの誕生日。彼女とナースチャの夫はこの日、出撃して帰らなかった。被弾して炎上する機体ごと、敵の艦船に体当たりをしたのである。
たまたまこの日に退院してきたベロブロフは、以前ナースチャと結婚の約束までしていた。その彼が、ナースチャたちに夫の死を知らせる役目をすることになる。
お調子者のチェレペツは食堂で働くマルーシャに夢中だが、マルーシャはある事情で親しくなるのを避けている。しかし、そんな彼女の心の内も察せずに、無神経に迫るチェレペツ。
ガブリロフはといえば、行方不明だった息子が孤児院にいたとわかって大はしゃぎ。
爆撃の音がひっきりなしにする中で、ごく普通に散髪をしたりして、慣れというのはおそろしい。雷撃機の乗組員たちはこうして一見、なんでもない日常生活を営んでいる。しかし、そういう状況に馴れたとしても、戦闘中に時として訪れる死から逃れられるわけではないのだ。
そしてまた、彼らに出撃命令が下る…。
関連作品:
レンフィルム制作の映画→「レニングラード大攻防 1941」
クナイフェリの音楽は、マルコ・ベロッキオ監督「夜よ、こんにちは」の中でも使われている。
追記:以下ネタバレ。結末を書いています。これから映画を見てみようかな?と思った人は読まない方がいいかも。
トレーラーで、「イリューシン4T!」と強調してるのを見て、そんな一雷撃機に萌えを感じる人がどれだけいるのか、ニッチすぎるだろ、と苦笑したが、見た後では、連呼する気持ちがわかるような気がしてきた。
チャプタリストにあるように、最後は「愛機とともに散る」のだが、敵艦の砲撃でパイロットが死亡し(砲手等は生きているがどうしようもない)、コントロールを失ったイリューシン4Tが空中でねじ切れてバラバラになって落ちていくラストに、心の深いところを突き動かされる。
乗務員のヒコーキに対する相棒的感覚が描かれているわけではないのだが、乗るときにクツを脱いだり、視察に来た将校が上れずにだらーんとなってたり、そういう細かいシーンの積み重ねによって、いつの間にか愛着が湧くようになっていたのだろう。監督のしくんだ罠にまんまとはまったわい(笑)。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 映画「父は憶えている」(2023.12.19)
- 映画「深い河」(2019.12.28)
- 映画「予想外のでき事」(2019.12.22)
- 映画「ソローキンの見た桜」ららぽーとでも上映しないかなぁ?(2018.12.17)
- 映画「天才バレエダンサーの皮肉な運命」(2018.12.16)
「ソ連」カテゴリの記事
- ついに出た『集史』「モンゴル史」部族篇の日本語訳!(2022.05.27)
- C98に向けアラビア文字のタイポグラフィーについて考える(2020.03.08)
- モンゴル近・現代史理解に不可欠の良書・佐々木智也著『ノモンハンの国境線』(2019.12.01)
- 『大旅行記』の家島彦一氏の講演を聴きに行ったよ(2019.06.09)
- コミケット95ではありがとうございました(2018.12.31)
コメント
雪豹様、こんにちは!
>邦題に「北極圏」
>原題「雷撃機」。
旧題「トルペド航空隊」ですね(当初私はサッカーと関係あるのかと思っていました)。DVD発売時に「北極圏対独海戦 1944」というタイトルになってしまった(「ベラルーシ侵攻1942」などと同趣向?「地名+戦/戦線/作戦/侵攻+年号」でシリーズ化しているの?パッケージも悪趣味!)のは残念に思っています。「トルペド」では売れそうにないと思われたのでしょうか。
アラノヴィチ、好きな監督なのですが、確かまだこれしかDVDで出ていないですよね。どんどん発売して欲しいです。アラノヴィチは元航空隊員で(クレジットに「クラスノズナメニー北部海軍パイロットの思い出に捧ぐ」とあり、彼自身の配属先はソロヴェツキー諸島だったそうなので、この映画の舞台もそのあたりである可能性は大きいと思えます)、こういう航空ものが大好き、男の世界を描くのが上手いと友人が言っていましたが、これなんか観ると、なるほどね、という感じです。
私が好きなのは「海に出た夏の旅」。大きな声では言えませんが、渋いおじさん好みのアラノヴィチ監督にしては珍しく、というかソ連映画としても珍しく、美少年が惜しみなく続々と登場。アラノヴィチはこの映画に出演した少年の一人のその後のドキュメンタリーを作るつもりでいたのですが・・・。
投稿: Киска | 2007年4月15日 (日) 09時09分
この映画、いいですよね。思い出しただけでもぐっときます。
この会社の出しているシリーズ(?)パッケージがみんな同じに見えるので、あまり期待しないで見たので、完全にやられました。予備知識がない(パッケージさえよく読んでない)状態で見れるのは、結構幸運なのかも?! お願いですから、ご存じの映画があってもネタバレしないでくださいね(笑)。
でも、当たりはずれというか、ムラがありますよね。「ベラルーシ侵攻1942」なんかは、中の字幕通り「ディアハント(←作戦コード名)」にしたほうがパチモンっぽくて、そういうの好きな人に手にとってもらえそうなのに。ちなみに、オマケのトレーラーのナレーター(たぶん同じ人)が、「北極圏対独海戦1944」では思い入れたっぷりに読んでいるのに、「ベラルーシ侵攻1942」の方は投げやりに聞こえるのが、「なんて正直な反応なんだ」とおもしろかったです。
>旧題「トルペド航空隊」
トルペド(魚雷)って外来語でしょうけど、これって、軍事マニアの人が見たらピンと来る題名なんでしょうか??? 私にとってはどちらにしても同じだったかも…。そもそも、雷撃機自体が地味かも。
>ソ連映画としても珍しく、美少年が惜しみなく続々と登場。
おお。美形がつきもののヴァンパイヤーものであるにもかかわらず「ナイト・ウォッチ」でさえ主人公がおじさん(子持ち)というソ連/ロシア映画にすっかり洗脳されたせいか、「ロシアの美少年」という存在自体がまったく想像できません!
投稿: 雪豹 | 2007年4月15日 (日) 20時09分