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2007年5月31日 (木)

【翻3-0】まえがき

С.Г.Кляшторный
ДРЕВНЕТЮРКСКИЕ РУНИЧЕСКИЕ ПАМЯТНИКИ
КАК ИСТОЧНИК ПО ИСТОРИИ СРЕДНЕЙ АЗИИ
Издательство ”НАУКА” Москва 1964
(S. G. クリャシトルヌィ著「中央アジア史史料としての古代テュルク=ルーン文字碑文」モスクワ・ナウカ出版社1964年)
の中の
ГЛАВА III СОГДИЙЦЫ И ТЮРКИ
(第3章 ソグドとテュルク)の下訳が完了しました。ばんじゃーい、ばんじゃーい。

 といっても、どこぞに発表できるわけでもなさそうなので、訳してたときに悩んだりおもしろい表現だなぁ、と思ったりしたもろもろの事を30回シリーズでアップしてみようかと思います。めざせ、毎日更新!(6月は)
 文法らしい文法を勉強していない素人ですので、本職のロシア語屋さんから見たら、しょーもない話だと思います。
 でも、ちょこっとだけ知ってるが故に、本職の方から見たらあったりまえーの事でもおもしろく感じられるというのは、素人の特権だと思います。まー、たとえて言えば、箸がこけてもおかしい、という感じで(←その例えは適切?…笑)。
 …ぶっちゃけた話、自爆ネタはウケがよい(例:デイリーポータルZでうけたネタ)ようなのでこの際、盛大に自爆してみようかな、と。(爆)。

 この章の内容を簡単に書くと以下の通りです。ただし、原文は「章」以下の項目に番号がありません。あると便利なので、前から順番に振ってみました。

S. G. クリャシトルヌィ著「中央アジア史史料としての古代テュルク=ルーン文字碑文」モスクワ・ナウカ出版社1964年
第3章 ソグドとテュルク
第1節 ソグド
 1-1 Alty chub soγdaq
 1-2 霊州襲撃
 1-3 キタイの反乱
 1-4 六州問題
 1-5 中国での戦い
 1-6 隴右攻撃
 1-7 キョル=テギン、最初の遠征
 1-8 六州のソグド
 1-9 オルドスのソグド居留地
 1-10 シルクロードのペリオイコイ(文字通りには、セリンディアのペリオイキス)
 1-11 風の道

突厥碑文の「アルトゥ=チュブ=ソグダク」とは、具体的にはいったいどこに住んでいるどんな人たちなのか。「アルトゥ=チュブ=ソグダクとは六州胡である」と今ではあったりまえーのように言われている説の元ネタがこれ。

第2節 テュルク
 2-1 絹貿易
 2-2 テュルクの伝説
 2-3 最後のフン
 2-4 阿史那部族
 2-5 トゥルファンの遺産
 2-6 突厥内のソグド
 2-7 オルドス居留地の始まり

中国の史書に出ている突厥の始祖伝説をリアルな歴史の反映と考え、阿史那(アシナース)というカガンの氏族名がインド=ヨーロッパ語族の言語起源であろうということから、テュルクとソグドの接触はかなり早いのではないかと考察する。両者の深い関係の歴史を突厥崩壊後まで概観する。

第3節 アルグゥの国
 3-1 テュルギシュのタート
 3-2 セミレーチエの諸都市
 3-3 ソグドの使節
 3-4 アンフィクテュオニア(隣保同盟)

キョル=テギン碑文中、解釈に議論のある語の解明を通じて西突厥、テュルギシュとソグド植民都市との関係を探る。旧ソ連での考古学的発掘の成果と漢文・イスラム・チベットそして突厥碑文の資料を総合して、セミレーチエのソグド諸都市の政治的立ち位置について考える。

詳しくは…そしてより正しくは「エス=ゲー=クリャシュトルヌィの突厥史研究」(下記参照)を是非ご覧ください。
全体として参考にしたのは以下の通り。各節ごとの参考資料は、その都度まとめる予定。

佐口透 山田信夫 護雅夫 訳注『騎馬民族史2』平凡社東洋文庫233
Kiba2騎馬民族史 2―正史北狄伝 (2)

1(五胡十六国関係)と3(吐蕃関係)も使いますが、全体的には2で。

それにしても、手持ちのをスキャナでとってみたら、なんかえらい汚れてるなぁ。



加藤繁 公田連太郎 譯並註  『國譯資治通鑑』
Noimage1『國民文庫刊行會国訳漢文大系』に収録。
戦前の邦訳、というか書き下し文。
E. O. ライシャワーは「あんなのは邦訳じゃない」というようなことを言っていたような気もするが、漢文読めない身には非常にありがたい。



護雅夫「エス=ゲー=クリャシュトルヌィの突厥史研究」
Dt1護雅夫著『古代トルコ民族史研究I』昭和42年3月 山川出版社に収録。
テュルギシュ関連でIIも使うけど、全体的にはこれ。
「エス=ゲー=クリャシュトルヌィの突厥史研究」とか、「劉茂才の突厥史研究」を読まないことにはなーんにもでけまへん。
古い本ですが神田神保町界隈だと、1なら普通に売ってます。でも2(バラ)がない(泣)。


小野川秀美「突厥碑文譯註」
Noimage1『満蒙史論叢 第四』(昭和18年7月満文化協会)に収録。





『岩波ロシア語辞典』岩波書店
Iwanamirya岩波ロシア語辞典

研究社のを使う人の方が多いかと思いますが、なぜか岩波(笑)。
柔らかいので手になじんで使いやすい。その分すぐバラバラになるのが玉に瑕。
こうしてみてみると、ハコ自体ぼろぼろじゃん。でもこれのおかげで中身がかろうじて分解せずに残ってます。

『広辞苑 第四版』岩波書店
Kojien4広辞苑

最新は5版だったかな。
これとこの下のエキサイト辞書両方に出てる言葉は、一般常識、誰でも知ってる(今知らなくても引けば知ってる)…ということで基準にさせてもらってます。

エキサイト辞書・国語(『大辞林 第二版』三省堂)・中国語(『デイリーコンサイス中日辞典、日中辞典』三省堂)

なお、掲示板に出ない特殊文字(トルコ語のヒゲつきsとかcとかその他もろもろ)は、半角英字記号等でそれっぽく作っているつもりです。心の目でご覧ください(ぇ)。

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2007年5月30日 (水)

映画「太陽」

太陽

2005年ロシア
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
キャスト:
昭和天皇…イッセー尾形
ダグラス・マッカーサー…ロバート・ドーソン
侍従…佐野史郎

 この映画を見て、私は驚愕した。

 何に驚いたかというと、昭和天皇がどんな顔をしていたか、どんな仕草をしていたか、まったく覚えていない自分の記憶力の悪さにびっくりしたのだ(笑)。
 皇室に興味がないからだろうといわれそうだが、そんなことはない。天皇の即位儀礼が突厥カガンの即位儀礼ににてるとか似てないとか、いろいろ話題になったではないか。興味あるよ! だから公開して!

 ヒトラーの仕草のクセなら、それこそ手が震えるところまで、結構
「あー、そうそう」
と記憶に残ってるのに、印象がなさ過ぎ。最初、イッセー尾形が出てきたところから、
「ん? こんな人だったっけ???」
と、似てる、似てない以前の問題だった。でも、後半はふと
「あ、こういう昭和天皇の写真、確かに見たことあるわ。」
というカットもあったので、似てるんだろうな。

 でも、絶えず口をもごもごしてるのって、私らのイメージには合うけど、それは戦後かなり経ってもう相当お年だった頃の話であって、終戦当時はそんなよぼよぼじゃなかったと思うんだけどなぁ。もっとも、戦前戦中の昭和天皇の動く映像ってあんまりないのかな?
 それにしても、日本で公開不可能?って言われた点がどの辺なのかわからなかった。

 悲劇的な状況って結構滑稽だったりするので、イッセー尾形と佐野史郎の掛け合い漫才みたいでクスッとするんだけど、同時にひどく痛々しい。

 ラストもなんだか救いがないよなぁ。敗戦国だからハッピーエンドってあり得ないとはいえ…。

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2007年5月26日 (土)

シリーズ「絲綢之路 14 カシュガル」

カシュガール/エイティガール寺院/香妃の墓 [絲綢之路シルクロード9]

中国
企画制作:浙江長城映視有限公司

 「シルクロード」とは何なのかよくわからないままではイカンと思い、ホータンのことをちょっと調べる必要が出てきたので、この機会に少しは勉強しようと思って借りてみた。

 なかなか素材感溢れるおもしろい映像だった。
 中国の会社が作って韓国でプレスしてるって感じが良く出ている(どーゆー感じよ?)。

 最初にチャプタリストが出、その中に「モハメッド カシュガリの墓」があった。ちょうど読んでた論文にマフムード=アルカーシュガリーについての話が出ていたので、おっ、タイムリー♪と思って押すと…。

 「カシュ東のバザー」が再生された(爆)。

 でもまぁ、「カシュ東のバザー」を押すと「モハメッド カシュガリの墓」が再生されたのでまぁ、いいっしょ(笑)。
 しかも、「カシュガル1」「カシュガル2」はこの前の巻『絲綢之路 13 タクラマカン砂漠』に入っていて、カシュガル関係の映像がぶった切れている。大陸的おおらかさがあますところなく演出されていて何とも心憎い(←褒めてます)。

 ナレーションは読み方は上手いのだがなにぶん単調なので、どうしても寝てしまう。たぶん、中国語の直訳なのだろう、中国のこの手の番組ってこういう事言ってるのか、とわかって結構おもしろかった(なら寝るな)。
 NHKのように、難しい漢字がキャプションで出たりする事など一切ないのも、親切すぎてお節介に感じられる日本の番組とは違うぜ、と異国情緒を感じられて趣深い。

 たとえば、「りくとく人」と盛んに言っているのは、間違いなく「粟特(ぞくとく=ソグド)人」のことだ。こういうの、中国語でもキャプション付いていたら、だいたい想像できるのだが。雲南で見たテレビには中国語でもちゃんと字幕付いてたのにさ~。簡体字は読みにくいとはいえ、クローズドキャプションくらい付ければ非漢民族には助かるんだけど。そういう配慮がないのも、「素材感」を醸し出してる。
 あと、突厥、突厥と連呼しているのが面はゆい。もちろん、阿史那氏のテュルクのことではなく、単に現代のトルコ系の人のこと言ってるだけなんだけれど。

 このシリーズ、全15巻なんだけど、たぶん、全部見たら疲れると思う。ツッコミどころ多すぎ(笑)。

 でもまぁ、所詮他人の撮った映像、入り用な所は映らなかったんだけれどね(爆)。

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2007年5月25日 (金)

ロシア人の名前がややこしい

 「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」を見ていて、サーシャが夫のミハイル・プラトノフのことを
「ミーシャ、ミーシャ、ミージンカ!」
と呼んでいたのでふと思った。ロシア語を知っていたり、翻訳物でもロシア文学をたくさん読んでいる人には分かり切ったことかもしれないが、ロシア人の名前の愛称ってひょっとしてあまりポピュラーではない? それでロシアものってわかりにくいと感じられていたりして?

 「ミハイル」という名前の愛称が「ミーシャ」なのはわりと有名かもしれないけど、サーシャのいう「ミージンカ」なんてのは初めて聞いた。ミジンコか(笑)。

 軍隊の中では、姓+階級で呼ばれるか、仲間うちでもだいたい呼び名が固定しているので字幕もそれほど苦労なさそうだが、普通、親しさの度合いで愛称も変化するので、同じ人を呼ぶのに、人によって呼び方が違ったり、同じ人が呼ぶ時もサーシャのように気分によって変わったりするので、人間関係の機微が話の中心になるヒューマンなドラマやコメディの字幕はたいへんそうだ。

問題:さて、そういうとき、字幕はどうなってるでしょう?
答え:ものによってバラバラ(爆)。

 でも、まー、よく使われる愛称はだいたい決まっている。そのなかでも原型がわかりにくいのは、例えばこんなの。

アレクサンドラ
→サーシャ、サーシェンカ
例1:「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲
→シューラ
例2:「北極圏対独海戦1944
アレクサンドラは女性名だが、男性名のアレクサンドルもサーシャって言う。
「友達のサーシャを紹介するね(はぁと)」
と言われて期待した結果がはずれても私は知らない。

アレクセイ
→アリョーシャ
例:「ベルリン陥落

アナスタシーヤ
→ナスターシャ、ナースチャ
例1:「シベリヤ物語
例2:「北極圏対独海戦1944

アンドレイ
→アンドリューシャ
例1:「シベリヤ物語
例2:「人間の運命

アンナ
→アンヌシカ、アーニャ
例:「ロマノフ王朝の最後
ラスプーチンが一番追いつめられた時に、アンナ・ヴィルゥボヴァを
「アンヌシカはどこだ?」
とうわごとのように呼ぶ。なんだかんだ言っても、一番頼りにしてたんだなー、と。

ヴァシーリィ
→ヴァーシャ、ヴァーシカ
例:「こねこ
ネコ~。

エカテリーナ
→カーチャ、カチューシャ
例1:「石の花 ウラル地方の物語
例2:「東部戦線1944
これは有名かも。エカテリーナとカザリンが同じ名前だと知っていれば見当はつく。

イヴァン
→ヴァニューシャ
例:「人間の運命
子供なのでヴァニューシャとしか呼ばれてないけど、たぶんイヴァン。
イヴァンの愛称はヴァーニャなんかも有名。

ミハイル
→ミーシャ、ミーシェンカ
例:「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲
他の人は「ミハイル・ヴァシーリエヴィチ」と日本語の「プラトノフさん」にあたる呼び方をしている。

ニコライ
→コーリャ
例:「レッドスナイパー~独ソ最終決戦~
主人公。新兵だから、みんなに小僧扱いされているせいか、本名が一度も出てこなかったような。

ナターリヤ
→ナターシャ
例1:「シベリヤ物語
例2:「ベルリン陥落
ひっじょーに多い名前。
「ベルリン陥落」で主人公のアレクセイがドイツの収容所で恋人を探して
「ナターシャアァァァ!」
と叫ぶシーンがあるが、思わず
「100人は振り返るだろ」
と突っ込んでいたぢぶんがいた。わりと胸しめつけられるシーンなのに(爆)。

タチヤーナ
→ターニャ
スターリングラード大攻防戦

セルゲイ
→セリョージャ
シベリヤ物語

そのほか、アナトーリィ→トーリャ、トーシャとか。
こういうのって、その都度書いておいた方が親切なのかなぁ?

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2007年5月21日 (月)

映画「9000マイルの約束」

9000マイルの約束

2001年ドイツ
監督:ハーディ・マーティンス
音楽:エドゥアルト・アルテミエフ
キャスト:
クレメンス・フォレル…ベルンハルト・ベターマン
ドクター・シュタウファー…ミヒァエル・メンドゥル
カメリアフ中尉…アナトーリィ・コテニョフ
イリーナ…イリーナ・パンタエヴァ

 第二次世界大戦後、ソ連で戦犯として25年の矯正労働の判決を受けたクレメンスが、デジネフ岬にある収容所から脱走して、徒歩でシベリアを横断し、ドイツの家族のもとに帰る、という実話を元にした感動の物語。

 ちなみに、デジネフ岬というとここら辺(←Googleです)。
 …ベーリング海峡を渡ってアラスカに行った方が早い(笑)。

 実話を元にしているとはいえ、ディズニー版「南極物語」とか、「夢駆ける馬ドリーマー」みたいな「片鱗もねぇ!」っていうのもあるので、「真実の物語」とか言われてもどの程度の真実なんだか(苦笑)と、正直、あまり期待はしていなかった。まぁ、普通に感動の家族愛、お涙ちょうだいモノでもいいや、現地でロケもしてるだろうから風景が堪能できれば、と。

 でも、見てみるもんですね~!!!

 シベリアの風景が素晴らしいのは予想通りだったのだが、シャマンの不思議な儀式が興味深かった。

 雪原でオオカミにかじられたクレメンスを地元の人が助けて集落に連れて行く。で、意識のないクレメンスの裸体の上に、ぺたんとトナカイのハツとレバーを乗っけて毛皮で包み込んでシャマンが太鼓を叩いて祈るのだ。

 そこの集落の美しい未亡人イリーナが献身的に看病する、といういわばお約束のストーリィなのだが、この儀式、監督は事前にアイディアがなくてシナリオも白紙で(笑)現地のシャマンに教えてもらって作り上げたのだという。監督、サイコー!
 ただ、具体的にどこの民族かわからないのが残念。

 物語上では、比較的ヤクーツクに近いヤクーチャのどこかのトナカイ飼養民で「エスキモーみたいな民族(監督談←なんか何もわかってないっぽい?…笑)」という設定だそうだ。円錐形のチュムっぽい家に住んでいる。馬がいないのでサハではないような気はするが。

 イリーナ・パンタエヴァはブリヤート人だが、ロケ地は西シベリアで、村自体はセットで作り物なものの、村人は現地の人を動員して撮ったということだ。ウグル系なのかな? 見る人が見たら特定の民族だとわかるのかも。
 あくまでヨーロッパ人が考える「シベリア少数民族」のイメージなのであって、具体的に「どこの誰」と詮索するのはヤボなのかもしれない。でも気になる(笑)。
 それにしても、あのレバーとハツは本当に美味そうだったなぁ~。この日、偶然晩飯のおかずに豚ハツとキノコのコリアンダー風味を食べたところだったので、運命さえ感じた(爆)。

 ちょっと笑っちゃったのは、カメリアフ中尉がクレメンスを追って、シベリアから中央アジアまでやってくるのだけれども、彼が尋問しようとするたびに、クレメンスとかかわった者が不可解な死を遂げるのだ。
 クレメンス…名探偵コナンの毛利小五郎ばりに不吉な男…(笑)。


関連作品:
音楽・アルテミエフの映画→「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」「ウルガ」「オブローモフの生涯より」
「シベリアード」
「鏡」「ストーカー」

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2007年5月16日 (水)

映画「人間の運命」

Unmei人間の運命

1959年ソ連
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
キャスト:
アンドレイ・ソコロフ…セルゲイ・ボンダルチュク
イリーナ…ジナイダ・キリエンコ
ワニューシカ…パヴリク・ボリスキン

 「炎628」を見たとき、ドイツ軍の残虐行為の描写が淡々としているのは、当時は同盟国だった東ドイツの事を配慮しての事だろうかと思ったもんだった。エレム・クリモフ監督自身もインタビューで、
「…多少表現を抑制した。真実のまま描いたら、本当に誰も見ないだろう。」
と言っている。
 でも、あれを抑制されていると思わない人もいるのかもしれない。ソ連が崩壊した今ではあまり読まれることもなくなったのかもしれないが、ソルジェニーツィンの「収容所群島」などでは人がいくらでも残虐になれることがつらつらと書き連ねられている。「収容所群島」が長すぎる、あるいは入手困難だというなら、クリミア=タタールが出てくるギンズブルグ「明るい夜・暗い昼」でも参考にしていただくとわかりやすいかも。
 なぜ、こんな事を言うのかというと、この映画「人間の運命」にちょっと気になるシーンがあったからだ。

 「人間の運命」のドイツ人は「炎628」にも増してヒドイ連中だ。主人公のソコロフは捕虜になってドイツの捕虜収容所に入れられ、家畜以下の待遇で働かされるのだが、そのドイツ人の描かれ方が、どうも「それドイツ人?」と思ってしまうのだ。

 おおっぴらに労働の過重さを批判をしたソコロフが、スターリングラード陥落の前祝いをしているドイツ人将校の所に呼び出されるシーンがある。そこで、収容所長が末期の水ならぬスピリッツをコップ一杯くれる。ソコロフは一杯どころか三杯もつまみなしに飲み干したために、その勇敢さに免じて銃殺を免れる。…そ、それってドイツでも勇敢って評価されることなのかなぁ? 酒が絡むとロシアって気がするのは偏見でせうか?(汗)
 その他にも、兵士が捕虜から靴を巻き上げたりとか。いちいちソ連ぽく見えてしまうんだが…。

 もちろん、原作がショーロホフの短編小説だから、想像で書いた箇所がソ連の矯正労働収容所から類推したために、それが透写されてそうなってるだけかもしれない。
 しかし、自由にモノを言えない国では、あらゆる隠喩が発達しているもの。私ら外の人間にはピンとこなくても、当時の人たちにはすぐわかるって事は多いはずだ。ソ連が崩壊して10年も経つと、当の旧ソ連の人たちでも若い世代にはわからなくなって、そのうち映像の残っているモノの方がそのまま歴史的事実のように理解されるようになってしまうかもしれないじゃない。

 ま、そんな事まで考えさせられたって程度の事ですが。

 ストーリィは、1900年生まれのソコロフの運命そのものが主題なので、詳しい内容を書いちゃあいけない(笑)。

それでもどうしても見てみたい人は以下ドウゾ↓(ネタバレ少々アリ)。

続きを読む "映画「人間の運命」"

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2007年5月14日 (月)

映画「初恋のきた道」

初恋のきた道

1999年中国
監督:チャン・イーモウ
キャスト:
私…スン・ホンレイ
若い頃のディ…チャン・ツィイー


 「Mongol」でジャムカ役のスン・ホンレイ出演ということで見てみたのだが、間が悪すぎる…。

 「田舎教師」「恋愛」という同じキーワードの映画のはずなのに、「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」と「初恋のきた道」では、正反対も正反対。しかも、「機械じかけ…」を先に見てしまったぢゃないか。誰のせいだ?(←自分のせいだろう)
 その破壊力に「初恋のきた道」のような素直な映画がかなうはずがない(爆)。
 いや、なにせダメでひねくれた大人だから、「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」の方がよっぽど共感できるんだもーん(笑)。

 だってさ、ディの行動、どう見たってストーカーでしょ。地方の村とはいえ、悪意のある人が一人も出てこないっていうのも現実離れしてるし。
 結局、容姿がよければ何をしてもうまくいくってか?という後味の悪さが残っちゃったよ。

 でも、素直な心と濁りのない目で見れば、ひととき浮き世の汚れを忘れさせてくれるよい映画ですよ!(棒読み)

チャン・イーモウ監督作品→「単騎、千里を走る。
スン・ホンレイ出演作品→「セブン・ソード

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2007年5月13日 (日)

映画「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」

機械じかけのピアノのための未完成の戯曲

1977年ソ連
監督:ニキータ・ミハルコフ
音楽:エドゥアルト・アルテミエフ
キャスト:
ミハイル・プラトノフ…アレクサンドル・カリャーギン
ソフィヤ…エレーナ・ソロヴェイ
サーシェンカ…エヴゲニヤ・グルシェンコ
アンナ・ペトローヴナ…アントニーナ・シュラノワ
セルゲイ・ヴォイニツェフ…ユーリー・ボガトィリョフ
ニコライ・トリレツキ…ニキータ・ミハルコフ

 落ちぶれた貴族の屋敷で催された宴で、招かれた客の一人プラトノフと新婦が昔つきあってた事から繰り広げられる喜劇。ダメな大人が集まってぐだぐだな酒宴を繰り広げる。そのダメっぷりが表情や仕草に大げさに表現されていてなんともおかしい。おかしいけど、そのダメな大人って自分じゃーと思うと笑いながらも背筋に冷たいものが走る(笑)。

 新婦が昔の彼女・ソフィヤと知らずに現在の奥さんサーシェンカとやって来たプラトノフ、最初に彼女に会った時の反応がわけわからなかった。
 あー、この二人付き合ってたから両方とも突飛な行動を取ったんだ、とわかったのは映画も後半に入ってから。に、ニブイな、自分(笑)。

(以下オチに触れています。これから無垢な気持ちで映画を見ようという人は見ない方が良いかもしれません。)

続きを読む "映画「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」"

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2007年5月 8日 (火)

映画「セルゲイ・エイゼンシュテイン-人と作品-」

Eisensteinセルゲイ・エイゼンシュテイン-人と作品-

1958年ソ連
監督:ワシーリー・カタニャン
出演:ジュゼッペ・デ・サンティス
   グリゴリー・アレクサンドロフ



 エイゼンシュテインって、ものすごい量のイラスト描いてるんですね~。画風が何となく手塚治虫に似てる?!
 手塚治虫あたりから漫画が映画的な表現の仕方を取り入れたという話なので、アングルとかテンポが似てるのはあり得るだろうけど、そうじゃなくてタッチとか人物の顔が似てる気がする。特にイワン雷帝のイラストは、鉄腕アトムの天馬博士に似てる(笑)。あーびっくり。

 あと、「ロマノフ王朝の最期」で、どうも気になっていたショットがあるんだけど、あれ、エイゼンシュタインの「ストライキ」からのパクリオマージュというか、引用みたい。ほんの1~2秒の場面なんだけど、瞬間的に「ストライキ」全編をイメージできるからだろう…「ストライキ」見てないけど(ベキバキ)。1,2秒でこれほど印象に残るとは恐るべし。

セルゲイ・エイゼンシュテイン監督の映画:

「ストライキ」……1924年
戦艦ポチョムキン」……1925年
「10月」……1927年
「全線/古きものと新しきもの」……1929年
「メキシコ万歳」(未完)
アレクサンドル・ネフスキー」……1938年
イワン雷帝」第一部……1944年、第二部……1946年、第三部(未完)

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2007年5月 6日 (日)

ケサランパサランのルーツがジャダだったとは

 ケサランパサラン
 子供の頃、流行った。テレビで見たのは、ウサギの毛皮のような感じで丸くなったヤツ。そのタイプは実物を見たことはないけれど、綿毛のようなのをケサランパサランという地方もあるらしく、それっぽいの(明らかにアザミの綿毛だろ、とは思ったが)を捜しては捕まえて、おしろいをやって飼ってる子もいた。

Kesaranpasaran
<アザミの綿毛>

 形はいろいろでも、おしろいを食べて増える、幸運をもたらす、毛というのが共通するナゾの生き物?だったと思う。
 名前がカタカナなのに、その割には昔からの言い伝えとかがあって、そのミスマッチというかアンバランスさが何とも言えず不思議魂(笑)をくすぐったもんだった。

 最近、日本ケサランパサラン協会の公式サイトを見つけて、おっ、懐かしいと思って読んでいたら、ケサランパサランの正体についてまとめられているところを見てあっと思った。
 ケサランパサランの正体とは…「家畜動物の腸内結石」…つまり、ジャダ=タシ(ジャダ石)だというのだ。
 しかも広辞苑に出ているって。

>ヘイサラ‐バサラ (pedra bezoar ポルトガルの転) 牛や馬の腹の中から出る結石。赤黒色で、解毒剤として用いられた。馬石記「彼の>馬玉の記に、 和漢にて鮓答(サトウ)といひ天竺(テンジク)にて―といふ」 広辞苑より引用

さ、さとう…ジャダじゃん!

>さ‐とう【鮓答・鮓荅】‥タフ 馬・牛・羊・豚などの胆石、または腸内の結石。生薬とする。牛黄(ゴオウ)。馬の玉。ヘイサラバサラ。ドウサラバサラ。 広辞苑より引用

 ジャダ石を使って雨を降らす方法は、テュルクに限らず、草原に広く伝わっている。
 例えば、トルイが金を攻略したときにカンクリ人に命じてジャダ術…特殊な石(ジャダ石)を水に浸して真夏に吹雪を起こさせた、という。(ドーソン著・佐口透訳注「モンゴル帝国史2」平凡社東洋文庫pp.351-354.)
 戦時に使うと記録に残りやすいけれど、そうでなくても雨が定期的に充分に降るとは限らない草原では、貴重な雨を降らす力って、とてもありがたいものだったに違いない。
大切な雨をもたらすもの…。
 それがめぐりめぐって日本にやってきて、「幸運をもたらす」というケサランパサランの性格に残っているとしたら、とてもおもしろい。

参考文献:

岩井大慧「遊牧民族鮓荅資料匯集」遊牧社会史研究第7冊(1961年2月)

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2007年5月 5日 (土)

映画「戦艦ポチョムキン」

戦艦ポチョムキン

1925年ソ連
監督:セルゲイ・エイゼンシュテイン
キャスト:
ワクリンチュク…アレクサンドル・アントノフ
ギリャロフスキー大尉…グレゴリー・アレクサンドロフ

 クラシック音楽を映画の音楽に使うってよくあるけど、今回見たバージョンは、ショスタコーヴィチの交響曲を使っていて先入観なく聞くのが難しい。
 例えば、有名なオデッサの階段のシーンに11番第2楽章「1月9日」(「血の日曜日」の日付)を使ってて、まー確かに非武装の市民を軍隊が射殺という似たような状況ではあるんだけど、ちょっと待てよ、と。
 ここでぐっとくるのは、ショスタコーヴィチにぐっときてるんではないか?と(笑)。

※ちなみに、DVDは淀川長治さんの解説付きのものだったんだけど、「イワン雷帝」とかすごい褒めてた。「これは歌舞伎だ!」って。

 そこでだ。マイゼルがこの映画用に作った曲付の「復元・マイゼル版」が出るようなので、そっちも見てみたいなぁ、と。

…というわけで、マイゼル版につづく

エイゼンシュテイン監督作品→「アレクサンドル・ネフスキー」「イワン雷帝
ショスタコーヴィチの音楽が使われている映画→「ベルリン陥落

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2007年5月 4日 (金)

映画「らくだの涙」

らくだの涙

2003年ドイツ
監督:ビャンバスレン・ダバー/ルイジ・ファロルニ

 らくだはいつも口ぽかーん。下唇が下がっているのでぼけっとして見えるが、結構気性が荒いよね。あの柔らかそうな口でトゲのあるカラガナ(ハリガナ、映画の最初にも出てくる植物)なんかばりばり食うし、身体もでかいし、毛がもさもさだからひょっとしたらオオカミの牙なんか肌まで届かないのかも。「らくだ(ブグラ)」の名を持つハーンがいるのも頷ける。この映画ではそんなに凶暴な面は見られないけど(まぁ、優しい?母らくだが主人公だしね)気に入らないと、くっさい胃液吐きかけてくるし。そもそも息がクサイ(←失礼な…笑)。

 ゴビの風景が何度見てもステキ。でも風はものすごいし、水の問題もあるから、軽い気持ちではなかなか行けない。でも住みたい(笑)。
 本当に遠くまで見通せるから、足の速い草食動物にとっては割と安全なところなんだろう。だからこそ、らくだのようによく適応した動物がいるんだろうなぁ。いいなぁ、らくだ。
 モンゴル語のテメーとかトルコ語のデヴェというのはらくだの鳴き声からきた名前なんだろうけど、映画の中ではそれ以外にも本当にいろいろな声で鳴いてる。

 それにしても、いかに事前に調査していったにしても、最後に生まれたらくだが白くてしかも母親が育児拒否ってまるで作ったような話だが偶然の出来事だとは。動物園で飼われている動物だと子供を育てないってことは結構あるらしいけど、それにしても撮影に行ったとき起こるなんて、ねぇ。

ビャンバスレン・ダバー監督作品→「天空の草原のナンサ

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2007年5月 1日 (火)

映画「ミュンヘン」

ミュンヘン

2005年アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
キャスト:
アヴナー…エリック・バナ
スティーヴ…ダニエル・クレイグ
カール…キアラン・ハインズ
ロバート…マチュー・カソヴィッツ
ハンス…ハンス・ジシュラー

 トルコの諺に、「血で血は洗い流せない。血を洗い流せるのは水だけ」というのがある。
 その昔、この諺を引いてエスカレートする報復合戦を止めた偉大なカガンがいたが、それとはまったく逆の判断をしたのが、イスラエルのメイア首相である。1972年のミュンヘンオリンピックでパレスチナのテロリスト集団「黒い九月」によって起きたイスラエル選手団殺害事件に対し、血で報いる事を決意した、といわれる。
 メイア首相の選択が間違っていたというつもりはないが、やはり血で血は洗い流せないのではないだろうか、と思えて仕方ない。この映画は真っ正面からこの事件に取り組んでいる。


ネタバレはないつもりだが、一応、新しめの映画なので。本文はこのあと↓。

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