映画「人間の運命」
1959年ソ連
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
キャスト:
アンドレイ・ソコロフ…セルゲイ・ボンダルチュク
イリーナ…ジナイダ・キリエンコ
ワニューシカ…パヴリク・ボリスキン
「炎628」を見たとき、ドイツ軍の残虐行為の描写が淡々としているのは、当時は同盟国だった東ドイツの事を配慮しての事だろうかと思ったもんだった。エレム・クリモフ監督自身もインタビューで、
「…多少表現を抑制した。真実のまま描いたら、本当に誰も見ないだろう。」
と言っている。
でも、あれを抑制されていると思わない人もいるのかもしれない。ソ連が崩壊した今ではあまり読まれることもなくなったのかもしれないが、ソルジェニーツィンの「収容所群島」などでは人がいくらでも残虐になれることがつらつらと書き連ねられている。「収容所群島」が長すぎる、あるいは入手困難だというなら、クリミア=タタールが出てくるギンズブルグ「明るい夜・暗い昼」でも参考にしていただくとわかりやすいかも。
なぜ、こんな事を言うのかというと、この映画「人間の運命」にちょっと気になるシーンがあったからだ。
「人間の運命」のドイツ人は「炎628」にも増してヒドイ連中だ。主人公のソコロフは捕虜になってドイツの捕虜収容所に入れられ、家畜以下の待遇で働かされるのだが、そのドイツ人の描かれ方が、どうも「それドイツ人?」と思ってしまうのだ。
おおっぴらに労働の過重さを批判をしたソコロフが、スターリングラード陥落の前祝いをしているドイツ人将校の所に呼び出されるシーンがある。そこで、収容所長が末期の水ならぬスピリッツをコップ一杯くれる。ソコロフは一杯どころか三杯もつまみなしに飲み干したために、その勇敢さに免じて銃殺を免れる。…そ、それってドイツでも勇敢って評価されることなのかなぁ? 酒が絡むとロシアって気がするのは偏見でせうか?(汗)
その他にも、兵士が捕虜から靴を巻き上げたりとか。いちいちソ連ぽく見えてしまうんだが…。
もちろん、原作がショーロホフの短編小説だから、想像で書いた箇所がソ連の矯正労働収容所から類推したために、それが透写されてそうなってるだけかもしれない。
しかし、自由にモノを言えない国では、あらゆる隠喩が発達しているもの。私ら外の人間にはピンとこなくても、当時の人たちにはすぐわかるって事は多いはずだ。ソ連が崩壊して10年も経つと、当の旧ソ連の人たちでも若い世代にはわからなくなって、そのうち映像の残っているモノの方がそのまま歴史的事実のように理解されるようになってしまうかもしれないじゃない。
ま、そんな事まで考えさせられたって程度の事ですが。
ストーリィは、1900年生まれのソコロフの運命そのものが主題なので、詳しい内容を書いちゃあいけない(笑)。
それでもどうしても見てみたい人は以下ドウゾ↓(ネタバレ少々アリ)。
ソコロフは革命と内戦のあとの飢餓で身内のすべて死に絶えた故郷に帰って来た。それでも結婚して幸せな家庭を築いて17年経ったとき、突然戦争が始まった…。
最も印象に残ったシーンは、ドイツの収容所でソコロフが夜な夜な見る家族の幻。
日本でも終戦記念日には、残される恋人や家族のために自分たちは死んでいくのだ、という類の特攻隊やらなんやらのドラマが流されるが、それがいかにナイーブか、と思わせる。まー、特攻隊員は若いから、ソコロフのようなタフな生き方を求めるのも酷なのかもしれないけど。
参考文献:
明るい夜暗い昼―女性たちのソ連強制収容所
エヴゲーニヤ・ギンズブルグ・著
中田 甫・訳
ボンダルチュク関連作品:
「バトル・フォー・スターリングラード」
「戦争と平和」
追記:
近所の図書館に原作(「人間の運命 (角川文庫版)」)があったので読んでみたら、ほぼそのまんまだった。これをここまで映像化できるとは。映画は小説とは違うから、多少違ってもしょうがないと思ってたが、安易に原作に手を入れるのって、どうなのかな~と考えさせられた。
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