映画「コミッサール」
コミッサール
1967年ソ連
監督:アレクサンドル・アスコリドフ
音楽:アルフレッド・シュニトケ
キャスト:
クラウディア・ワビーロワ…ノンナ・モルジュコーワ
エフィム・マハザンニク…ロラン・ブィコフ
マリヤ・マハザンニク…ライサ・ネダシコフスカヤ
祖母…リュドミラ・ヴォルィンスカヤ
司令官…ワシーリー・シュクシン
入浴シーンがあると、
「サービスだ!」
と騒ぐのが常だが、この映画の冒頭、主人公のワビーロワが風呂入っててもサービスとは思わなかったな(笑)。
むしろ、エフィムが妻マリヤの足を洗うシーンの方がなにやらあやしげ。と言うか、意味深長。
思わず、ヨーロッパ各地(特に東ヨーロッパ)の石器時代の遺跡で見つかるいわゆる「ヴィーナス」像が思い浮かんだ。
「ヴィーナス」の発掘状況から、女神信仰は現生人類誕生と同時に生まれたとか。あのシーンは、ロシア人、ヨーロッパ人に限らず奥深いところにグッとくるのではないだろうか。
ロシアで女神といえば、地母神мать-сыра земля(マーチ=スィラー ゼムリャー 母なる湿潤の大地)が有名だが、所詮、農耕と一緒にやってきたか、農耕とともに生まれた新しい神格であり、表層的なものに過ぎない。
内戦期のロシア。とある村に赤軍の一部隊がやってきた。
この部隊のコミッサール(党から軍に派遣されている政治委員)で筋金入りの共産党員ワビーロワは、「進歩的な」女性である。戦闘が続く中、ある男性と「進歩的な」おつきあいをした結果、妊娠してしまった。既に臨月を迎え、産休に入らざるを得ない。
そこで貧乏人の子だくさんを絵に描いたようなエフィムの家の一室を接収して、ワビーロワにあてがった。エフィムの妻マリヤには、まもなく妊娠している事を見抜かれてしまう。マリヤは、本当に子供をも6人も産んだのか?!ってほど細いが、やはり心の強い人でてきぱきと出産の準備を進めるのだった。
やがてワビーロワは赤ん坊を出産。
しかし、反革命軍の反攻により、赤軍は村から撤退しなければならなくなった…。
もう一つ、印象に残ったシーンをあげると、軍馬の群れが草原を走っていくところ。
人の気配はするが、兵士の姿はない。鞍が置かれ鐙が下がっている馬群に向かって機関銃が撃たれる。馬が走りすぎたあと、丘には墓標が立っている、というもの。
軍馬たちは豊かな河にたどり着き、隊伍を組んだまま流れの中でごくごく水を飲み、赤ん坊が生まれる…って、こりゃ見てないと意味不明だな(笑)。
これも、なんだかロシア的地母神というよりは、アナーヒター(アルドウィー=スーラー=アナーヒター)やサラスヴァティーのような河を本性とする女神を思わせ、ロシアというよりはもっと人類共通の感覚に訴えようとしているかのようだ。
こんなふうに、戦闘や銃殺などをそのものずばりでは描かないので、幻想的な映画だ。
この映画が公開を禁止され、ペレストロイカでも監督自らが声を上げなければゴルバチョフさえ掬いあげようとしなかった原因は、ユダヤ人差別の問題と言われている。それについては、きっと誰かが書くだろうから、お任せするとして。
正直言って、ユダヤ問題を知識としては知っていても、自分の問題として理解することができないので、思うところがないだけだが。
その辺の問題を、ロシア人であるとかユダヤ人であるという以前に、人類のモラルの問題としてイメージさせるために、女神信仰や河川信仰のような民族以前の人類共通の感覚に訴えているのかもしれないな。
…絵そのものはレンガのように固い角砂糖をガリガリかじったり、赤ん坊を手足が動かないようギッチリとくるむのなんか、ローカル色豊かだが(笑)。
関連作品:
ロラン・ブィコフ→「アンドレイ・ルブリョフ」(旅芸人役)
ワシーリー・シュクシン→「バトル・フォー・スターリングラード」(ピョートル・ロパーヒン役)
ノンナ・モルジュコーワ→「バトル・フォー・スターリングラード」(ナターリヤ・ステパノヴナ役)
アルフレッド・シュニトケ音楽→「ロマノフ王朝の最後」
「エア・パニック -地震空港大脱出-」
「スターリングラード大攻防戦」
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