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2007年11月29日 (木)

今年印象に残った10本の映画(前編)

少々早いような気もしますが、今年見た映画の中で印象に残った10本をピックアップしてみます。

今年見た最もひどいDVD
「合衆国沈没」(原題「FAULTLINE」本来は映画ではなく、TVドラマと思われる)
あまりにも酷いので、感想も書いてない。お馬鹿映画わりと好きなので、世間が酷い酷いと言っても笑って楽しめちゃったりするのだが、これは本当に酷い。
こんな事書くと、
「へぇ、どんだけヒドイんだ?」
とかえって興味をそそられ、見たくなる人もいるだろうが(←そりゃ自分だろう)、たとえレンタル100円のセール中に借りたとしても、「金返せ!」と言いたくなること間違いなし。こんなのを売ったら詐欺の片棒を担ぐ事になる、という経営判断からか、Amazonでも扱っていない。

……。
さっ、気を取り直してアクセス数ベスト3いってみよう。

最もアクセス数の多かった映画
「ベルリン陥落」
これは心の底から腹黒い笑いがこみ上げてくる映画。ヒトラー役の役者さんのそっくりすぎる形態模写(?)が光る。ヒトラーを良く知らない人は、「ヒトラー最期の12日間」とセットで見ることをお奨めする。
最初、この人が話し始めたとき、
「ん?」
と思った。よくよく聞くとロシア語なんだけれど、「ドイツ語風に」しゃべってるから何だかおかしい。これがお笑いでなくてなんじゃ(笑)。これを当時のソ連の人が真面目に見ていたと思うとかなり痛いが、その痛さも含めてブラックな笑いを誘う。お奨め。

同2位
「蒼き狼 地果て海尽きるまで」
珍しくリアルタイムの映画のためか、アクセス数第2位だった。この映画自体は私は決してお奨めしないが、アクセス数集計時、番外に「蒼き狼 成吉思汗の生涯」(加藤剛主演)、「MONGOL(未公開)」(浅野忠信主演)の二つのチンギス=ハンものが入っていたので取り上げる。

※二つとも、関連記事が複数あり、それぞれを合算すると、「蒼き狼 地果て海尽きるまで」とほぼ同数になる。

「草原系」ブログなので、ネタとしてはふさわしいけれども、本心はチンギスばっかりじゃなく、そろそろイルティリシュ=カガンとかアルプ=クトルグ=ビルゲカガンとか朱邪赤心(オヤジの方かよ!)とかの映画も作ってはどうか、と強く訴えたい。

同3位
「炎628」
628
季節調整値(?)込みの実質だと、これがアクセス数第2位だろう。見終わったあとの精神的ダメージは群を抜いており、数値では表せない。しばらくはモーツアルトのレクイエムが耳から離れないかもしれない。映画でもコミックでも、前情報なしにまっさらな状態で見るのが良いんだろうが、これはだけはちょっとまずいかもしれない。もちろん、私もお奨めしたい映画ではあるんだけれど、うかつには奨められないのが悩ましいところ。
プロパガンダ映画でこれよりグロい画を延々と見せる映画もあるが、実はそんなのはちぃとも恐くないっていうのがこれを見るとよくわかる。まぁ、そんなやつらには言わせておけってことです。

次点
「アレクサンドル・ネフスキー」
Nevskiy
この他に「イワン雷帝」が6位に入っていたり、「戦艦ポチョムキン(復元マイゼル版)」がトラックバック野郎でピックアップされたりと、エイゼンシュテイン監督作品は安定した人気があるのかとも思うが、「タタールのくびき―ロシア史におけるモンゴル支配の研究」が出版されてアレクサンドル・ネフスキーに関心を持った人が増えたかもしれないので、「アレクサンドル・ネフスキー」と言う検索語でウチに来たとしても、本当に映画目当てなのかは定かではない。
歴史物としてみると重箱の隅をつつきたくなるところもないではないが、それも制作された時代の語り部、その辺を読み解くのも楽しみの一つ。映画自体は勧善懲悪の娯楽活劇、見終わったあとは、当ブログで取り上げる映画にしては珍しく、スカッと爽やか。

後編は今年見た中からお奨め映画を。え? お奨めカルト映画って訳では…(汗)。

参考:2007年(1/1~11/29)アクセス数ベスト10(カッコ内は訪問者数)
1位「ベルリン陥落」(291)
2位「蒼き狼 地果て海尽きるまで」(158)
3位「炎628」(149)
4位「アレクサンドル・ネフスキー」(145)
5位「妖婆 死棺の呪い」(142)
6位「イワン雷帝」(120)
7位「ロマノフ王朝の最期」(100)
8位「ロシア特殊部隊スペツナズ【チェチェン・ウォーズ】」(94)
9位「スターリングラード大攻防戦」(82)
10位「不思議惑星キン・ザ・ザ」(69)
番外「蒼き狼 成吉思汗の生涯」
番外「MONGOL」

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2007年11月25日 (日)

映画「ブラックバード・フォース」

ブラックバード・フォース

2003年イタリア
監督:アレッサンドロ・バローリ
キャスト:
アル・ファビアーニ…ピア・ジョルジョ・ベロッキオ
リッツォ…ピエトロ・タリコーネ
イリアナ…カシア・スムトニアク

 1999年、コソボ紛争は終結した。KFOR(コソヴォ・フォース、国際安全保障部隊)がアルバニア人とセルビア人の間に入って、どうにかこうにか、両者の衝突も沈静化してきた…。

 その後ニュースを聞かないと、まるでもう普通の生活が戻っていたのかと錯覚してしまう。たとえ憎しみの火種が心の奥に残っていたとしても、とりあえず平和なのかなぁ、と。しかし、流血の事態は少しも終わっていなかったのだ。表だっては見えなくなっただけで。…その見えない戦火のただ中にKFORとして派遣されたイタリア兵たち。

 基本的に相手は一般市民なのだから、安易に発砲して殺してはいけない。しかし、一般市民とは言っても、セルビア人憎さの余り、自分の家を追い出される老人に火炎瓶(手榴弾かも知れない←普通に持っていそう)を投げたりするのだ。こっちが殺されるっていうことは大いにあり得る。宿直で歩哨に立ったボナーニが、目の前で短銃を構えられ、気も狂わんばかりになってしまうのも無理はない。

 アルたちの部隊が移動していたとき、急遽ルートを変更せよとの指令が入る。そうでなくても、途中バスがひっくり返っていたり、牛が殺されていたり、不穏な雰囲気プンプンするのに…。緊張がぐっと高まる中、地図が古くて(!…でもありそう)道に迷って地図にない村にたどり着いてしまった。アルバニア人の村らしいが、道を聞いてそこを出ようとしたとき、
「アルバニア人に殺される!」
と泣き叫ぶ女が車の前に飛び出してきた。
 彼女の夫だという男は、彼女はセルビア人でなく家庭内の問題だと言うが、何とも判断のしようがない。

 この、判断のしようがない、というところが何とも恐い。これがこの映画の何とも言えずいやーな感じが漂ってる所なのだ。何が最善の判断なのか、どうにもわからない。

 とりあえず彼女を保護することにし、彼女の言葉を確かめるために、彼女に案内されて行くと、半分腐った屍体が山積みにされていた…。

 このあと、トンネルが崩落して、部隊が分断されて、トンネルの逆側に取り残されたアルと女、通訳、リッツォ、ペトローニは別ルートを通って部隊に合流しようとあてにならない古い地図だよりに進む。地図ではよくわからない分かれ道を女の言葉通りに行くと、突然の爆発で車が横転。敵襲か? とびびりまくる兵士。とっとと逃げる通訳(笑)。それは地雷だったのだが、この女と一緒にいるとやたら事故が多い。疫病神か?

 でも、この女が怪しいというか挙動がおかしいんだよなー。リッツォにソーセージの缶詰を勧められても食わないし。豚肉入ってるからだろうということになるが、それって、おかしくないか。この女、セルビア人じゃないんじゃ…?
 じゃあ、夫を名乗る男の方が正しかったのか? 単なるDV夫から逃げたくてアルたちを利用したとか? 個別に三人に迫ってくるし。そんな私的な事だったら、KFORは介入しない方が良かったのかも…。とにかく通訳も逃げちゃって細かく問いただせないし、そもそも問いつめると、
「あんたたちにはわからない」
って怒り出すし…。

 実際のコソボもきっとこういう、何が正義で誰が被害者なのか、何が民族浄化で何が家庭の事情なのか、どこまでNATOが介入して良いのかの線引きができない困った感じなんだろうな。どこだかのマス=メディアが図式化して単純に、アルバニア人=被害者=かわいそう! なんてとても言えたものじゃないって不確かさが良く出てる。決して後味の良い映画ではないけれど、「リアル戦争映画シリーズ第2弾」と謳ってるのは正しい。ただ、DVD外装のイメージとは異なり市街戦のシーンはない。バカバカ撃ってスカッと爽やかなんて、そんなリアルの戦争はないもんな。原題は「Radio West」。

参考:
KFORの公式サイト→http://www.nato.int/kfor/
ピア・ジョルジョ・ベロッキオ出演の映画→「夜よ、こんにちは
リアル戦争映画シリーズ第1弾ってこれのこと?→「ステイト・オブ・ウォー

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2007年11月21日 (水)

映画「女狙撃兵マリュートカ」

41女狙撃兵マリュートカ
1956年ソ連
監督:グリゴリー・チュフライ
キャスト:
マリュートカ…イゾリダ・イズヴィツカヤ
中尉…オレーグ・ストリジェノフ
コミッサール・エフスュコフ…ニコライ・クリュチコフ

 内戦期。ズプズプの乾ききった砂の沙漠カラクムをひたすらアラル海めざして歩く革命軍の一行。

「やっとの事でアラル海に着いても、干上がっちゃってたりしてな(笑)」

なんて冗談のつもりで茶化していたら、監督がインタヴューで当時、本当にアラル海の水位が下がってきていて、カメラマン(セルゲイ・ウルセフスキー)がそこでは撮りたくない、と主張して、カスピ海で撮影したのだという。ひえ~、1950年代にもうそんなだったのか。

 一行は、カスピ海沿岸のグリエフからシル川沿いのカザリンスクにある司令部をめざしているのだが、水も食料も尽き、沙漠は風も強いから体力の消耗が激しそうだ。燃やして暖を取るくらいの草は生えているが、季節柄枯れてカラカラに乾いている。追っ手の白衛軍でさえ、
「どうせ、死んでしまうのだ。」
と言って沙漠の奥までは深追いはしない。
 マリュートカはその革命軍の一人で、もう40人も射殺している腕の良い狙撃兵だ。

 そんな一行に接近してくるカザフ人の隊商があった。ちょうど良いとばかりに襲いかかる革命軍の一行。
 しかし、カザフ人の切実な訴えや、自分たちの仲間のウマンクル(カザフ人、演じている人は「アンドレイ・ルブリョフ」にも出てるようだ)の複雑な表情を見て、筋金入りのコミッサールもちょっとかわいそうになったのか、ラクダを半分「貸してもらい」、半分は残してやる事にした。
 …コミッサールにちゃんと借用書書いてもらったから、ボリシェビキが天下を取った暁には! この借用書を持って行けば!! …集団化とか言って残りも全部取り上げられるであろう!!!
 …って、シャレにならん話だよな。

 この隊商には、カザフ人たちと一緒に沙漠を渡り、カスピ海沿岸政府のデニキン将軍に極秘情報を伝えるために派遣されたゴボルーハ中尉がおり、革命軍の捕虜になった。マリュートカにとっては41番目の獲物だったのだが、撃ち漏らしてしまったのだ。降伏したとはいえ、極秘情報をぺらぺらしゃべる男ではなかったので、カザリンスクまで連行することになる。


Caspian_seasat_2
※Google mapで見ると、アラル海の湖岸は真っ白だったりする訳だが、昔の話なので水はたっぷり入れてみた。

 原題「41番目」。41番目の標的って意味なんだろう。マリュートカがコミッサールに命令されて、この貴族のお坊ちゃんの中尉を見張ることになった。姿が見えなくなった時点で
「撃ーて、撃ーて、さっさと41番目の獲物にしてしまえ~。」
なんて期待しながら見てた(コラ)。でも、もちろん、気は強いが根の素直なマリュートカは、「貴族=敵」という図式だけで見ていた中尉を近くでじっくり見ることによって、意外に良いヤツ?と思えてくるのだ。

 ストーリィはこんな感じで安心して見ていられる。アラル海を船で渡ろうとして、この二人だけ無人島に打ち上げられるなんて、王道中の王道じゃないか。

 そこで。カラクムのどこまでも続く砂とラクダを堪能した。とにかく沙漠。ラクダの糞がコロコロ。何にもなーい、それでいて砂山のでこぼこで必ずしも地平線まで見通せるわけでもない光景をどう表現するのか、写真を撮るときの参考になるか?と思ってじっくり見た。でも、リアルすぎてむしろ舞台を見ているような感じで、すごく不思議。外で撮ってるのに、舞台照明のように思うがままに光の具合が演出されているのは、太陽がその角度に来たり、雲がその形になるのを待ってたって事なのか?
 ラクダってホントに表情が読めないなぁ…。ぽかんとした口ととろんと下がった瞼のせいか。あれでもいつも見てる人にはわかるんだろうなぁ…。

 しかし、カザフ人の立場からすると、いろいろと難しいというか、厳しい時代のようで…。ラクダが盗まれればウマンクルが真っ先に泥棒呼ばわり。実際は、ラクダ泥棒に殺されているというのに。
「ボリシェビキにラクダ盗られました!」
と反革命側に訴えても何をしてくれるでもなし。
 カラクムをラクダ無しで越えてきた革命軍の一行をもてなしたって事で村は焼かれるし。アラル海の岸辺にある村なんだけど、焼かれる前から何だか貧しそうだったよ。冬か春先の話だから、特に草がなくて荒涼としている時期なのかも知れないが、それを考えに入れたとしても、ひどく荒れた感じなんだなあ…。
 一方、帝政側について働いてるヤツもいたり、まとめる者がいない民草はああなっちゃうって見本みたいだ。まぁ、どんなことをしても食いつないでやるってしぶとさが見えるのがせめてもの救いではあるが。

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2007年11月18日 (日)

映画「フライト・パニック~ペルシャ湾上空強行脱出~」

フライト・パニック~ペルシア湾上空強行脱出~

2002年イラン
監督:エブラヒム・ハタミキア
キャスト:
ガセム…ハミッド・ファロクネジャード
ナルゲス…レイラ・ハタミ
アティエフ…ゴハル・ヘイランディシュ

 これほど先の読めない映画は初めて見た。

 おいおい、それはないだろう(笑)、というくらい逆転に次ぐ逆転。まさにどたばたコメディ。
 イランにそれほど思い入れのない私でも、
「うわー、きついなー」
と思わず苦笑いしてしまったくらいだから、イランに何らかの思い入れのある人には、ブラック過ぎて笑えないかも知れないが、毒のないコメディなんて、ねぇ。イランが好きだけど…←けど、何? とちょっと一言ある人には思い当たる節がたくさんあるんじゃないかな。その辺の一言…二言、三言…を是非裏でこっそり聞きたい(笑)。

 空港の待合室のテレビに、煙の上がるツインタワーが映し出されるから、不審な夫婦者(ガセムとナルゲス←きれいな人だね)がハイジャックを企んでいるんだろうというのは想像がつくが、そのハイジャック計画のあまりのずさんさに、思わず
「ハァ???」

 ネタバレしちゃうとおもしろくないので、あまり書けないけど、結構お奨め。

 いやぁ、それにしても、母ちゃん最強。イスラム革命もおばはんパワーを削ぐことはできなかったか(笑)。

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