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2007年11月25日 (日)

映画「ブラックバード・フォース」

ブラックバード・フォース

2003年イタリア
監督:アレッサンドロ・バローリ
キャスト:
アル・ファビアーニ…ピア・ジョルジョ・ベロッキオ
リッツォ…ピエトロ・タリコーネ
イリアナ…カシア・スムトニアク

 1999年、コソボ紛争は終結した。KFOR(コソヴォ・フォース、国際安全保障部隊)がアルバニア人とセルビア人の間に入って、どうにかこうにか、両者の衝突も沈静化してきた…。

 その後ニュースを聞かないと、まるでもう普通の生活が戻っていたのかと錯覚してしまう。たとえ憎しみの火種が心の奥に残っていたとしても、とりあえず平和なのかなぁ、と。しかし、流血の事態は少しも終わっていなかったのだ。表だっては見えなくなっただけで。…その見えない戦火のただ中にKFORとして派遣されたイタリア兵たち。

 基本的に相手は一般市民なのだから、安易に発砲して殺してはいけない。しかし、一般市民とは言っても、セルビア人憎さの余り、自分の家を追い出される老人に火炎瓶(手榴弾かも知れない←普通に持っていそう)を投げたりするのだ。こっちが殺されるっていうことは大いにあり得る。宿直で歩哨に立ったボナーニが、目の前で短銃を構えられ、気も狂わんばかりになってしまうのも無理はない。

 アルたちの部隊が移動していたとき、急遽ルートを変更せよとの指令が入る。そうでなくても、途中バスがひっくり返っていたり、牛が殺されていたり、不穏な雰囲気プンプンするのに…。緊張がぐっと高まる中、地図が古くて(!…でもありそう)道に迷って地図にない村にたどり着いてしまった。アルバニア人の村らしいが、道を聞いてそこを出ようとしたとき、
「アルバニア人に殺される!」
と泣き叫ぶ女が車の前に飛び出してきた。
 彼女の夫だという男は、彼女はセルビア人でなく家庭内の問題だと言うが、何とも判断のしようがない。

 この、判断のしようがない、というところが何とも恐い。これがこの映画の何とも言えずいやーな感じが漂ってる所なのだ。何が最善の判断なのか、どうにもわからない。

 とりあえず彼女を保護することにし、彼女の言葉を確かめるために、彼女に案内されて行くと、半分腐った屍体が山積みにされていた…。

 このあと、トンネルが崩落して、部隊が分断されて、トンネルの逆側に取り残されたアルと女、通訳、リッツォ、ペトローニは別ルートを通って部隊に合流しようとあてにならない古い地図だよりに進む。地図ではよくわからない分かれ道を女の言葉通りに行くと、突然の爆発で車が横転。敵襲か? とびびりまくる兵士。とっとと逃げる通訳(笑)。それは地雷だったのだが、この女と一緒にいるとやたら事故が多い。疫病神か?

 でも、この女が怪しいというか挙動がおかしいんだよなー。リッツォにソーセージの缶詰を勧められても食わないし。豚肉入ってるからだろうということになるが、それって、おかしくないか。この女、セルビア人じゃないんじゃ…?
 じゃあ、夫を名乗る男の方が正しかったのか? 単なるDV夫から逃げたくてアルたちを利用したとか? 個別に三人に迫ってくるし。そんな私的な事だったら、KFORは介入しない方が良かったのかも…。とにかく通訳も逃げちゃって細かく問いただせないし、そもそも問いつめると、
「あんたたちにはわからない」
って怒り出すし…。

 実際のコソボもきっとこういう、何が正義で誰が被害者なのか、何が民族浄化で何が家庭の事情なのか、どこまでNATOが介入して良いのかの線引きができない困った感じなんだろうな。どこだかのマス=メディアが図式化して単純に、アルバニア人=被害者=かわいそう! なんてとても言えたものじゃないって不確かさが良く出てる。決して後味の良い映画ではないけれど、「リアル戦争映画シリーズ第2弾」と謳ってるのは正しい。ただ、DVD外装のイメージとは異なり市街戦のシーンはない。バカバカ撃ってスカッと爽やかなんて、そんなリアルの戦争はないもんな。原題は「Radio West」。

参考:
KFORの公式サイト→http://www.nato.int/kfor/
ピア・ジョルジョ・ベロッキオ出演の映画→「夜よ、こんにちは
リアル戦争映画シリーズ第1弾ってこれのこと?→「ステイト・オブ・ウォー

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