映画「女狙撃兵マリュートカ」
女狙撃兵マリュートカ
1956年ソ連
監督:グリゴリー・チュフライ
キャスト:
マリュートカ…イゾリダ・イズヴィツカヤ
中尉…オレーグ・ストリジェノフ
コミッサール・エフスュコフ…ニコライ・クリュチコフ
内戦期。ズプズプの乾ききった砂の沙漠カラクムをひたすらアラル海めざして歩く革命軍の一行。
「やっとの事でアラル海に着いても、干上がっちゃってたりしてな(笑)」
なんて冗談のつもりで茶化していたら、監督がインタヴューで当時、本当にアラル海の水位が下がってきていて、カメラマン(セルゲイ・ウルセフスキー)がそこでは撮りたくない、と主張して、カスピ海で撮影したのだという。ひえ~、1950年代にもうそんなだったのか。
一行は、カスピ海沿岸のグリエフからシル川沿いのカザリンスクにある司令部をめざしているのだが、水も食料も尽き、沙漠は風も強いから体力の消耗が激しそうだ。燃やして暖を取るくらいの草は生えているが、季節柄枯れてカラカラに乾いている。追っ手の白衛軍でさえ、
「どうせ、死んでしまうのだ。」
と言って沙漠の奥までは深追いはしない。
マリュートカはその革命軍の一人で、もう40人も射殺している腕の良い狙撃兵だ。
そんな一行に接近してくるカザフ人の隊商があった。ちょうど良いとばかりに襲いかかる革命軍の一行。
しかし、カザフ人の切実な訴えや、自分たちの仲間のウマンクル(カザフ人、演じている人は「アンドレイ・ルブリョフ」にも出てるようだ)の複雑な表情を見て、筋金入りのコミッサールもちょっとかわいそうになったのか、ラクダを半分「貸してもらい」、半分は残してやる事にした。
…コミッサールにちゃんと借用書書いてもらったから、ボリシェビキが天下を取った暁には! この借用書を持って行けば!! …集団化とか言って残りも全部取り上げられるであろう!!!
…って、シャレにならん話だよな。
この隊商には、カザフ人たちと一緒に沙漠を渡り、カスピ海沿岸政府のデニキン将軍に極秘情報を伝えるために派遣されたゴボルーハ中尉がおり、革命軍の捕虜になった。マリュートカにとっては41番目の獲物だったのだが、撃ち漏らしてしまったのだ。降伏したとはいえ、極秘情報をぺらぺらしゃべる男ではなかったので、カザリンスクまで連行することになる。
※Google mapで見ると、アラル海の湖岸は真っ白だったりする訳だが、昔の話なので水はたっぷり入れてみた。
原題「41番目」。41番目の標的って意味なんだろう。マリュートカがコミッサールに命令されて、この貴族のお坊ちゃんの中尉を見張ることになった。姿が見えなくなった時点で
「撃ーて、撃ーて、さっさと41番目の獲物にしてしまえ~。」
なんて期待しながら見てた(コラ)。でも、もちろん、気は強いが根の素直なマリュートカは、「貴族=敵」という図式だけで見ていた中尉を近くでじっくり見ることによって、意外に良いヤツ?と思えてくるのだ。
ストーリィはこんな感じで安心して見ていられる。アラル海を船で渡ろうとして、この二人だけ無人島に打ち上げられるなんて、王道中の王道じゃないか。
そこで。カラクムのどこまでも続く砂とラクダを堪能した。とにかく沙漠。ラクダの糞がコロコロ。何にもなーい、それでいて砂山のでこぼこで必ずしも地平線まで見通せるわけでもない光景をどう表現するのか、写真を撮るときの参考になるか?と思ってじっくり見た。でも、リアルすぎてむしろ舞台を見ているような感じで、すごく不思議。外で撮ってるのに、舞台照明のように思うがままに光の具合が演出されているのは、太陽がその角度に来たり、雲がその形になるのを待ってたって事なのか?
ラクダってホントに表情が読めないなぁ…。ぽかんとした口ととろんと下がった瞼のせいか。あれでもいつも見てる人にはわかるんだろうなぁ…。
しかし、カザフ人の立場からすると、いろいろと難しいというか、厳しい時代のようで…。ラクダが盗まれればウマンクルが真っ先に泥棒呼ばわり。実際は、ラクダ泥棒に殺されているというのに。
「ボリシェビキにラクダ盗られました!」
と反革命側に訴えても何をしてくれるでもなし。
カラクムをラクダ無しで越えてきた革命軍の一行をもてなしたって事で村は焼かれるし。アラル海の岸辺にある村なんだけど、焼かれる前から何だか貧しそうだったよ。冬か春先の話だから、特に草がなくて荒涼としている時期なのかも知れないが、それを考えに入れたとしても、ひどく荒れた感じなんだなあ…。
一方、帝政側について働いてるヤツもいたり、まとめる者がいない民草はああなっちゃうって見本みたいだ。まぁ、どんなことをしても食いつないでやるってしぶとさが見えるのがせめてもの救いではあるが。
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コメント
なんか、久しぶりにまともなトラックバック頂きました(^^;
投稿: 武藤 臼 | 2008年5月27日 (火) 00時41分
おおっ、それは光栄です(笑)。
投稿: 雪豹 | 2008年5月27日 (火) 23時32分