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2007年12月24日 (月)

【モ1-3】生神女アラン=ゴア

 古い時代には、子供を産む能力があると証明されている子持ちの女性の方が、結婚相手としては好まれたようでありますが、神様に仕える人は、処女でなくてはいけなかったり、結婚してはいけなかったりするというようなきまりは、世界各地にあるようです。
 現在の日本でも、性体験したことのない人には霊が見えるとか30歳過ぎまで童貞だと魔法使いになれるとかいう話があるのは、その名残ででもありましょうか。

 そういう俗世の穢れを知らない清らかな女性が、稀に、処女のままなにか聖なるものの子を身ごもり、産み落とす事があります。
 この類の伝説で、世界で一番有名なのは、ナザレのイエスを生んだマリアでしょう。
 しかし、そういう伝説はチンギス=ハンの一族にもあります。

 その昔。
 ブルカン=カルドゥンに住んでいたドブン=メルゲンは、コリ=トゥマドの乙女・アラン=ゴアを娶りました。ドブン=メルゲンが若くして亡くなった後、アラン=ゴアは男の子を三人、次々と産み落としました。
「彼女を娶るべき夫の兄弟もいないのに、どうして彼女は赤子を産んだのか。不倫でできた子に違いない。」
いつの世でも、憶測でモノを言う人はいるものです。影でこそこそ言われていることを聞き知ったアラン=ゴアは、子供たちを集めて毅然とした態度で言いました。
「夜になると、なにかはわからぬが光るものが天窓からゲルに入ってきて我が腹にしみ入った。それが這い出て行くときは、黄色い犬のような形をしていた。これは、神の化身に違いあるまい。その子孫はいずれ世界を支配するであろう。凡人どもは、その時になってようやく我の言ったことが真実であったと知るであろう。」
つまり世界征服者の出現を予言したわけです。彼女が光を浴びて生んだ三人の子の末子・ボドンチャル=ムンカクの11代の子孫が、チンギス=ハンになるのです。

 ちなみに、アラン=ゴアの産んだ子供たちの子孫が、モンゴルの中でも特に「ニルン」と呼ばれる集団になりました。ニルンとは、『集史』の筆者ラシードの説明によると、「腰」という意味だそうです。アラン=ゴアの神聖なおなかから出てきた子らの子孫だから、という事でしょう。

エッ?
「アラン=ゴアは、ドブン=メルゲンとの間にも子供が二人もいるじゃん! 処女懐妊じゃないじゃん!! マリア様と違うじゃん!!!」ですと~。

何だってー!

……ばれたか。クリスマス=イブなので、マリア様にあやかった話にしてみたかったのですが(笑)。
 でも、光線を浴びて身ごもったという話は本当です。
 やはり、多産を豊饒の象徴ととらえていた時代のことなので、神様も子供を産める能力を自ら証明した女性がお好みだったもようです。

ではでは。皆様、良いクリスマスを!

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2007年12月20日 (木)

映画「ミラーウォーズ」

ミラーウォーズ

2005年ロシア
監督:ヴァシーリー・チギンスキー
キャスト:
アレクセイ・ケドロフ…アレクサンドル・エフィモフ
キャサリン…クセーニヤ・アルフェロワ
ボリス・コリン…ヴァレーリー・ニコラエフ
マンフレッド…ミハイル・ゴレヴォイ
マードック…マルコム・マクダウェル

 最初、感想書くつもりはなくて、軽い気持ちで見たのだが、思いがけず興味深い映画であった。
 何しろ、ステルス戦闘機サーベルタイガー(Su-35)が非常に格好良く撮れている、そりゃあもう、スホイ社のプロモーションかってほどに!(爆)
 そう考えると、英語なのもとても納得。なぜか使われているノートパソコンが全部リンゴマークだったり、サッと見て違和感を持った箇所をじっくり見なおすとなんかいろいろと笑える。
 普通は最後にやっつけられる極悪武器商人が、ちゃっかり逃げおおせちゃうのもスポンサー?(スホイ)の意向だったりしたら恐いな。

 素行にやや(大いに?)問題ありで、頭もそんなに良くなさそうなアレクセイが主人公。仕事人間の父親に反発しつつも、父親に諸々の失敗をフォローしてもらっているという駄目男だ。でも、彼には誰にも負けない素質がある。経験などの点で、まだまだNo.1パイロットのボリスには敵わないけれども、ヒコーキを操縦するために生まれてきたのかって程の天才肌のパイロットなのだ。そして、サーベルタイガーを操縦できるたった3人のテストパイロットの一人でもある。

 諜報の世界は、合わせ鏡の世界のようだとかいうから、そのあたりからとって「ミラー・ウォーズ リフレクション1」なんだろうが、本格的な諜報モノでもないな。得体の知れない人物は出てくるけど、「そりゃあないだろう」ってツッコミ入れたくなるシーンが多すぎる。真面目に謎解きする気にならん。むしろ娯楽大作だから考えちゃいかんのかな?(笑)。

 キルギスは本当にロケしたのかよくわからない風景。キルギス人弱すぎ。イスタンブルではロケしたんだろうな~。すぐパキスタンに行っちゃうから一瞬だったけど。あと、航空ショーの場面でMi-12(こういうヤツ)がちらりと映っててびっくりした。(←え、まだあったの?っていう)


参考:
チギンスキー監督作品→「極限水域 ファースト・アフター・ゴッド

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2007年12月18日 (火)

映画「鬼戦車T-34」

T34鬼戦車T-34

1964年ソ連
監督:
ニキータ・クリヒン
レオニード・メナケル
キャスト:
ヴャチェスラフ・グレンコフ
ゲンナージー・ユフチン
ウラジーミル・ポゴレリツェフ
ヴァレンチン・スクルメ
ブルーノ・オヤ

 原題「ひばり」。大空をどこまでも高く高く飛ぼうとするひばり。その空を遮る有刺鉄線で物語は始まる。ドイツ軍の捕虜になったソ連兵たちが故郷に飛んでかえりたい、と思う気持ちを代弁するかのように、太陽に向かって飛びながらひばりはさえずる。

 ドイツ軍はソ連の戦車T-34の弱点を探ろうと、鹵獲したT-34を修理して射撃の的にし、あれこれ実験を繰り返していた。的になる戦車の乗員になった捕虜はみんな射殺されてしまうので、修理している捕虜たちには、その後戦車に乗せられる自分たちがどうなるのかはわかっていない。たまたま、元戦車乗りで腕の良い男がドイツ軍将校の目に留まり、新兵器の実験の時にでも使おうか、と生かしておいたのがドイツ軍にとって運の尽き(?)だった。彼は、策略でそのT-34を奪取。一緒にT-34を修理していた仲間たち(フランス人らしい非ロシア人を含む)と目の前にあるものをことごとく踏みつぶし、ドイツ兵を蹴散らして爆走。これがすごい。

 あんなものも(ベンツとか)!
 こんなものも(石造りの家とか)!

あっけなく潰れるもんだ。ベキベキ、バキバキ、めりめり、がらがらがっしゃーん…って感じ。さすが実車。
 しかも、これだけグシャッと踏みつぶすんだから結構な重量があるに違いないのに、舗装道とはいえかなりな速度で走ってる。舗装路上では時速50km出るそうだが、こんなのが時速50kmで突進してきたらイヤ~~~!
 現在でも時々、天下の公道や街中を戦車で爆走するヤツがいるが、自分が乗る方だったら確かにこれはやってみたいわ。ひゃーはっは、とか笑っちゃうだろうな。

 ただし、的役だったので武器弾薬は全く積んでおらず、燃料にも限りがある。国境からも遠く、冷静に考えれば全く絶望的な状況なのだ。
 矯正労働させられているソ連の女たちが、
「味方だ! 味方だ!」
と歓喜して戦車を追いかけるシーンで、それをいやと言うほど見せつけられる。戦車の乗員たちばかりでなく見てるだけのこっちまでもが
「さっさとあきらめろ、追うな」
と泣いてお願いしたくなるほど。だって、味方の戦車には違いないんだが、結局、何もできないんだよ? 目の前にいる女たちを助ける事もできなくて、自分たちだって逃げることしかできない。
 それでも、女たちの数は増え続け、野を覆うほどに。しかも全速力で駆けてくるのがなんともいえず痛々しい。

 ソ連の第二次世界大戦ものの映画で、主人公やその周囲の人々は死ぬことが多い。そうでないとリアルじゃないと感じられるほど、ソ連では死傷者が多かったんだな。
 この状況じゃ、主人公だけ都合良く生き残ったりはしなそうだなぁ、と思っていたのに、ああいう終わり方は想定外かも。見終わってから考えれば、ソ連らしいなー、とは思うけど。

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2007年12月10日 (月)

【モ1-2】「オルガナはオレの嫁」

 ホラーサーンのバーミヤーン攻略の際、敵の矢に当たって死んだチャアダイの長男モエトゥケン(ムトゥゲン)。
 彼は四人の息子を遺して逝きました。末の息子カラ=フレグに、美人の産地として名高いオイラトから妃を迎えることになりました。それがオルガナです。

 オルガナは、オイラトに嫁いだチンギスの娘・チチェゲンの娘です。
 後に若くして亡くなったカラ=フレグに代わり、チャアダイのウルスの当主になる彼女は、よほど美人だったのか、気の利く女性だったのか、いたく気に入ったオゴデイがこんな事を言っています。

「オルガナはオレの嫁(ベリ)」

……ん?
オゴデイ?

(おいおい、チャアダイの孫にきた嫁じゃんよ……)

 大カアンよ、その発言はまずくないですか? 普通、「オレの嫁」とか思っても、口に出して言うもんじゃないでしょー。
 そういう事うっかり口にしちゃうと、末代までの語りぐさになっちゃうよ!

チャアダイ家系図(暫定)
Genealogy2
チンギスの子供って誰だっけ?と思ったらこちら
参考:オイラト・クトカ=ベキ家の系図

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2007年12月 3日 (月)

ドラマ「チンギス・ハーン」

チンギス・ハーン

2005年イギリス
監督:エドワード・バザルゲティ
キャスト:
チンギス・ハーン…オルギル・マクハーン
若い時のテムジン…ウヌボルド・バトバヤル
スベエテイ…ウヌルジャルガル・ジグジドスレン
ホエルン…エルデネツェツェグ・バサルラグチャー
ボルテ…アンフニャム・ラチャー
ジャムカ…バヤルフー・プルヴェー

 良い色合いの空を背景に投石機がブン、とアームを振るのが実に豪快。
 城攻めどういう風にやっていたのかって所を見たいなぁ、とずっと思っていた、ちょうどそこの所を描いてくれたから、まさに
「こういうのを見たかったんだよ~」
って感じ。ま、実際、ジョチの出自の話なんて興味ないもんな。それは単に好みの問題だけど。
 全体にモンゴルモンゴルしてるのがすてき。みーんなモンゴル語しゃべってる。しかし、勢い余って(?)長春真人もモンゴル語しゃべってないか?

 『元朝秘史』をベースにしていても90分のドラマだから、もちろんバッサリ切られていて、トオリルなんか全く出てない。一方、スベエテイは出てるんだから、ヨーロッパ人にはよほど知られた人なんだなぁ。
 現在の行政区分に引きずられた感じのある地図にやや違和感があり、チンギスの最後の遠征先がおおざっぱに「中国」とされていた。しかし、90分でも見応えのあるビシッと締まったドキュメンタリー・ドラマになってる。

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【モ1-1】「モゲかわいいよモゲ」

 チンギス=ハンが亡くなった後、チャアダイはオゴデイに使いを出しました。
「親父の遺した妻妾のうち、モゲ皇后をオレにくれ」
普通、父の死後は、その妻たちは弟たち、息子たちが娶るものです。オゴデイはチンギス=ハンの跡を継いで皇帝になったので、父の妻妾を継承しています。
 モゲは、チンギス=ハンの一番のお気に入りでした。チンギス=ハンが
「モゲかわいいよモゲ」
と言って息子たちに自慢したかどうかは知りませんが、よほどの美人かかわいい女性だったのでしょう。妃にしようとねらっていたのは、チャアダイばかりではなかったようです。
「惜しい。あの人はオレがもらったよーん。もうちょっと早く言ってくれたら兄貴にのし付けて送ったのに。代わりと言っちゃ何だけど、他に気に入った娘がいたらどれでも好きなの取って良いぜ」
その返事を聞いたチャアダイ、
「もういいよ。オレの欲しかったのはモゲなんだよ。他のはいらね」
……いらないと十把一絡げに言われた他の后妃の立場は?

 オゴデイもモゲを一番寵愛したと言われていますが、二人の間に子供はおりません。
 でも、それはかえって良かったのかもしれません。ほら、オゴデイには恐い奥さん(ドレゲネ皇后)がいるので、男の子でも生まれてしまった暁には、母子ともに命が危ない!

 いや~、それにしてもこんなにモテモテってどんなにきれいな女性だったんでしょうね? モゲはベクリンという山岳民族の出身なんですが、彼女と同じベクリン部族出身の母から生まれたカイドゥがものすごく強靱な身体と意志を持っているところから想像すると、引き締まった肉体の気の強い女性というのを想像するんですが……。(←ちょっと武侠入ってます?)

オゴデイ家系図(暫定)
Genealogy3
もう少し広い範囲はこちら(チンギス=ハン周辺)


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2007年12月 2日 (日)

【モ1-0】モンゴル帝国の女たち

さて、11月には早々と(?)今年のまとめをしたので、12月はちょっと別のテーマにしてみます。
そのテーマとは…ざん!

「モンゴル帝国の女たち」

なんて大きく出てしまった。希望では小話風にしたいのに。←看板に偽りあり???
しかも、まだ5人くらいしかネタがありません(爆)。

やや不安に思いつつ、とりあえずこれから考えまーす。

チンギス=カン家の系図(簡略版・暫定)
Genealogy0

※たぶん後で改訂します。系図書きに良い資料があったら教えてください。

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2007年12月 1日 (土)

今年印象に残った10本の映画(後編)

前編)からの続き

歴史
「ロマノフ王朝の最期」
Agoniya
同じエレム・クリモフ監督の「炎628」をアクセスランキングで取り上げたのでどうしようかと思ったが、やはりそういう計算抜きにして。
クリモフ監督自身は、インタビューで
「魅力的な素材でスタッフも優秀で作曲家、カメラ、美術、俳優、皆いい……でも私がダメだった。」
というような事を言っているが、合格ライン高すぎですってば(笑)。
でも、確かにまるでT-レックスの尻尾にしがみつた監督が、ぶんぶん振り回されながらも恐竜を御そうとしているような凶暴なパワーが画面からほとばしる。その荒削りな感じが良いんだって。
ただ頗る登場人物が多いので、ロシア革命について興味がないと、ラスプーチンのエロ坊主・無軌道ぶりを口をあんぐり開けてみてるだけになってしまうかも。それだけでもおもしろいんだけど、登場人物みんなそれぞれひどいよ。例えばプリシケーヴィチ。右翼ってどこの国でも似たような印象になるのは何でだろ。ニコライ二世はニコライ二世で、ヒゲだけ立派で情けない。
それにしても、社会主義国ってエロ厳禁だと思ってたけど、文芸作品だとぽろりもOKなんだな。

アクション
「レッド・ガントレッド」
すべての秩序が崩壊しているカオスな感じがものすごく出ている所が良い。
オイルマネーで社会が豊かになったこれからは、もうこういう映画は出てこないかもしれない。もちろん豊かになったといっても、いつの時代にも闇の部分や弱肉強食の部分はあるのだろうが、描かれ方が違ってくるに違いない。この続編「アンティ・キラー」でさえ、もうこれほどカオスな感じではなくなっているもんな。
残念なのは、日本で発売されているDVDは英語版がベースになっている事。誰かロシアへ行ったら、ロシア版(クローズドキャプション付のヤツ)おみやげに買ってきてくれないかな?(笑)ロシア版もあんなに無国籍な感じなんだろうか。

戦争
「北極圏対独海戦 1944」
ソ連崩壊後の「東部戦線1944」も悪くないが、ラストシーンでこちらを取る。

外国語映画
「夜よ、こんにちは」
ステイト・オブ・ウォー」といまだに迷っているけど、とりあえずこっち。

この映画は劇場で見たい
「シベリアーダ」
Sibiriada
こういう一見、シベリア開発を後押しするような映画でもファンタジーっぽい要素が入り込んでるっていうのがロシアらしいのか? 共産党の幹部と妖精さん(笑)が普通に共存してて言葉を交わしてるって相当変だと思うのだが。
これは是非大きいスクリーンで見てみたい。「バトル・フォー・スターリングラード」の爆撃も劇場で見たいような気もするが、最後の方は寝てしまいそうなので、見た後の余韻を重視。
あと、本筋に関係ないけれど、
「パパイカ! パパイカ!」
って連呼するものだから、やたら耳に残ってる。シベリア方言だろうと思うが、覚えてても使いどころがないんだけど。

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