映画「大祖国戦争」
1965年ソ連
監督:ロマン・カルメン
何と言っても重厚な映像に圧倒される。
特に第1部が良い。ドイツ側のカメラマンが撮った映像を使っているせいか、画面がクリアで美しいし、ソ連視点のドキュメンタリーにしては割と客観的に第2次世界大戦を描いている。もちろん、腰の重い西側にいらいらしつつ、ソ連が孤軍奮闘したかのように描かれてはいる点は、そうだっけ?と思わないでもないけど、ソ連人だったら誰でもそう思いながら日々援軍が現れるのを待っていたんだろうし、率直にその感じが出ているのは、むしろ当時の普通の人の心情がわかって良いと思う。
いやね、監督が「ニュルンベルク裁判 人民の裁き」のロマン・カルメンなので、どんなプロパガンダ映画かとどきどき(わくわく?)しながら見はじめたんだけれど、そんなことはなかった。
確かに、第2部にはドイツ軍やヒトラーを揶揄する言葉を投げつけるシーンもあるけれども、それもかなり控え目だし、兵隊になった普通のオッサン……共産党員でもない、普段ならトラクターを運転してたり、工場で働いていたりする……の頑張りが故郷を救ったってのは、どの国でも讃えて良いことだろ?
でも、「モンゴル襲来から700年ぶりの敵の襲撃」とか言うのやめろよ~。そこで何で比べる?……てか、ナポレオンは眼中にないのかよ。
ブレジネフ時代の映画のせいか、スターリンもちゃんと出てくるし。
ゾルゲの警告を無視した件とか、ドイツ軍の初期の快進撃を許した件にも言及していて、功罪両面が描かれているのが意外な感じがした。まるでそんな人いなかったかのようなでもなく、「ベルリン陥落」のように英雄視するでもなく。ふつうじゃないっすか~。
私でも知ってる有名どころのジューコフやコーニェフなどなどの将軍連中も出ては来るが、彼らや共産党の天才的な指導力によって導かれたというような描かれ方ではなく、普通の兵士、平凡な人々の地道な粘り強さこそが祖国を救い、ヨーロッパを開放したんだ、という点に重点が置かれている。
そりゃあ労働者農民の国だからだろ~と言えなくもないが、それよりたぶん、もっと素朴な感情からだと思うね。「ソ連」でなく祖国「ロシア」とか言っちゃってるもん。この正直者!(爆)
全体的に、イデオロギーのしばりは緩い感じなので、ふつうのドキュメンタリーとして見られてなかなか良かった。
余談だが、スターリングラードのシーンでは、ジュード・ロウが出ていた映画「スターリングラード」で見たような場所が一瞬ちらりと映った。あんなお馬鹿映画一歩手前のようなのでも一応考証してるんだな。「スターリングラード」ってソ連人が主人公なのに、ソ連人が紋切り型で描かれていて「?」な映画だったのだが、ちょこっと見なおした。……え? その映画のツッコミどころはそこじゃないって?(笑)
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コメント
ご無沙汰しております。
新聞の書評欄でチンギス・アイトマートフ「キルギスの雪豹」という本を目にしました。作者はキルギスの有名な作家で先ごろお亡くなりになったばかりとのこと。波乱万丈の物語で、6月に出たばかりのようです。
最近、耳がおかしくなって来たようです。子どもが「トゥルイさん、トゥルイさん」と連発するのでモンゴルの人が来たのかと思っていたら「つるい(鶴井?)さん」でした。そのうち、「大河内さん」を「オゴタイさん」と聴き間違えるようになるかと心配です(笑)
では。
投稿: Yangzi | 2008年7月 3日 (木) 22時51分
Yangziさん、こんにちは。
キルギスは行ってみたい国No.1です。
私のハンドルもキルギス映画「白い豹の影」からとっているようなもんですし。
アイトマートフ読んだことはないです。亡くなったんですかぁ。
それはそうと、トゥルイはともかく
>「大河内さん」を「オゴタイさん」
それはさすがにないんじゃないかと……(笑)
投稿: 雪豹 | 2008年7月 4日 (金) 00時59分