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2008年7月21日 (月)

映画「鶴は翔んでゆく」

Crane鶴は翔んでゆく

1957年ソ連
監督:ミハイル・カラトーゾフ
キャスト:
ヴェロニカ…タチヤナ・サモイロヴァ
ボリス…アレクセイ・バターロフ
フョードル・イヴァノヴィチ…ヴァシーリー・メルクーリェフ
マルク…アレクサンドル・シヴォリン

 恋人が志願して戦場に向かっただけでも、充分悲劇的なのに、主人公には次々とつらい出来事が襲い掛かる。それでも、彼女は生きていく。彼女に生きていく気力を蘇らせたのはほんの小さな言葉の手向けだった。

 恋人が死ぬとか、主人公がレイプされるとか、キィワードを並べみたら、ふと、
「あれ、これ現代風に言ったらケイタイ小説……?」
と思ってしまった(笑)。いや、悪い意味ではなくて。あと足りないのは難病くらいか。
 ま、正攻法の正面突破、王道中の王道ってことなんだろう。それを陳腐にならずに一気に最後まで見せるには、監督にも役者にも、スタッフ全員に相当のパワーが要求されそうだけれど。

 それにしても、これって希望を示唆する終わり方だけれど、ハッピーエンドじゃないよなぁ。ロシアの女は強えぇなぁ(笑)。
 でも女だけじゃありませんぜ。「人間の運命」などは一番愛する者が一度ならず二度、三度と失われても、それでも生きていく男の話で、となるとロシア人強えぇぇぇって事になるのかもしれないけど、全員が全員、ここまで強いワケじゃないよなぁ。ソ連時代の自殺率って割と高いらしいじゃないの、統計は取ってないと思うけどさ。戦中戦後をこういう風に強く生き抜いた人たちがたくさんいたのは事実にしても、人としてこうありたいなぁっていう理想といえば理想であるのかもしれない。

以下ネタバレ。これから見て大泣きしたい人は読んではいけません。
Semenovs_footnotes

 夜中デートして朝帰りのヴェロニカとボリス。夜明けの空を鶴が飛んでいく。上に気を取られていて散水車に水をぶっかけられる二人。ソ連の散水車はすげーからな~(笑)。
 ここってモスクワ川? どの辺だろう。有名スポット(この映画によってかも)だろうと思うけど、Google等でいうとどの辺かな?(他人任せ)
 ヴェロニカはこっそり家に帰り、ボリスは犬に吠えられて慌てて隠れたりしているが、周囲の人たちも二人が付き合っているのは知っているし、みんなこの二人は結婚するんだと思っている。

 そんな日曜日、ラジオで独ソ開戦のニュースが流れる。

 灯火管制に備えて暗幕を張りながら、ヴェロニカは無邪気にじゃれてボリスを踏んづけたり(しかも靴で)しているが、どうもボリスの反応がうわの空っぽい。実はボリスはステパンと一緒に志願して戦争に行くつもりで、でもそれはヴェロニカや家族には内緒にしている。明日はヴェロニカの誕生日なのでこうした幸せな気分を壊したくなかったからだ。そういう思いやりがやがて裏目に……。
 ステパンが興奮気味に飛び込んで来て彼ら二人に召集令状が来たことを告げる。突然のことで衝撃を受けたヴェロニカはボリスに詰め寄る。
「私達のことはどうなるのよ!」
……それはそうと、乳頭がくっきりしている服はどうも気になる。

 ボリスはヴェロニカの誕生日のプレゼントのリスのぬいぐるみ(ヴェロニカの愛称ヴェールカとリス(=ベールカ)をかけたダジャレ?)に手紙を隠し、お婆さんに託して出発する。すれ違いにヴェロニカはやってくるが、お婆さんも手紙を隠すところは見ていないので、プレゼントを受け取ってもヴェロニカはボリスが手紙を入れ忘れたと思い込んで集合場所に走った。ヴェロニカはボリスを見つけたのだけれど人混みに阻まれ、ボリスの方はヴェロニカ来なかったなー、と暗ーい顔をして戦場に向かった。

 戦争はだんだん激しさを増して、モスクワには空爆も。
 ある時、ヴェールカは両親を部屋に残して一人で地下鉄駅に避難した。空襲警報が解除されて地上に出てみれば、自分の向かっている方向に消防車が走っていく。いやな予感に走り出し、自宅アパートのドアを開けてみれば、そこは空……直撃されたに違いない。

 こうして両親を失ったヴェロニカは、ボリスの家族のもとに身を寄せることになったのだが、そこに同居しているボリスのいとこのマルクは、ヴェロニカを以前から好き。ボリスの父親フョードルはマルクがヴェロニカを口説いたことがあるなんて知らないから、ヴェロニカに親切にしてやれよ、何て世話を託してる。しかもフョードルも娘も医療関係者だから非常に忙しく、家にいないことが多い。……見るからに別の意味で世話しちゃいそうなんだけどな、これ。

 予想どおりというか、マルクはヴェロニカをレイプして無理やり結婚してしまうんだけれども、美人が呆然としていると本当に白痴みたいに見える。ひでー話だと思うが、こういう事になってしまうと周囲の女性の風辺りがきつくなる。中にはわかってくれる人もいるようだが、それでも、陰口をわざと聞こえるように言ってみたり、非常に陰湿で執念深い。自分の夫や恋人が戦争に行って自分はこんなに不幸なのに、という感情のはけ口になっちゃうのかね~。

 少しは気を取り直したヴェロニカがそれにも耐えていられたのは、疎開先で看護婦の仕事をして忙しくしていたっていうのと、わかってくれる人もいると信じていたから。ところが、そう信じていた人の一人、ボリスの父までが、
「くだらん男のために英雄を捨てた女など、つまらん女だ! ……我ら男の軽侮にしか値しない!」
などとぶっちゃうんだもの。もちろん、負傷して弱気になった上に、恋人に逃げられたと知って泣きわめいて暴れる負傷兵を慰めるために言ったに過ぎず、心も身体も疲れてないときだったら、売り言葉に買い言葉で
「ハァ? 自分の愛する人の幸せより、自分の独占欲を優先するワケ? つまり自分の欲望を満たしたかっただけで、愛なんか最初からなかったのね! そんなつまらん男なんかこっちから願い下げだわ、ヴォケ!」
とでも言っておけばいい程度の話なんだろうが(そのあと、双方で反省して「ゴメン……」とか言っちゃうとツンデレになるかな?)、ヴェロニカはわかってくれていると信じていた人が本心ではこう思っていたのか、といたたまれなくなって病院から飛び出してしまう。橋の上から身を乗り出し、爆走してくる汽車に……。

 飛び込もうとした瞬間。
 偶然、車に気付かずのこのこ歩いている子供に気付く。反射的に飛び出して助けたヴェロニカは、子供の名前がボリスだと聞いてぎゅっと抱きしめるのだ。
 この子供がなかなかのクソガキぶりで。
 泣く子には誰も逆らえないのを知っているのか、いつもヴェロニカに辛く当たっているボリスの姉妹に
「クソはおまえだ」
とか爽快なことを言ってくれる(笑)。

 一方、マルクは漫画チックなほど酷いヤツに描かれてる。
 疎開先では、いつまでもよそよそしいヴェロニカにマルクはだんだん飽きてきた。当たり前だって。最初からヴェロニカはイヤって言ってるのに、肉体関係さえ持ってしまえば心までも自分のものになるとでも思ってたのかね。若い男が非常に少ないのでもててたのは間違いないので、うぬぼれてんのかもしれないけどね。
 徴兵忌避する人にはそれぞれ理由があるのに、全員が全員こういうずるい人で非国民と決めつけてしまいかねない全体主義の香りがしないでもないが、とりあえず、ここはヴェロニカの一途さを際だたせる小道具として同情の余地のない卑劣漢でないといかんのね。

 この酷い男は、無神経にもボリスのプレゼントのリスを勝手にその女の誕生日プレゼントに持っていってしまう。
 でもそのおかげで、酔っぱらいが
「いろんな料理を食べたけど、クルミはまだだよん」
と縫いぐるみをいたずらしてボリスの手紙がヴェロニカの手に渡るきっかけとなった。しかも、マルクが徴兵を免除されたのが不正によるものだと発覚するきっかけにもなったので、意外と正義の女神テミスだったかもね?

 そういうわけでマルクは追い出され、ヴェロニカは小さいボリスを引き取って暮らしていた。全然素性のわからない戦争孤児を拾って育てる話って多いよなぁ。血が繋がっていようといなかろうと、神の授けてくださった子という考えが根底にあるんだろうか。まさかテュルク=モンゴルの影響じゃあるまいが。日本だとたとえ引き取るにしてもせいぜい親戚の子じゃないか? この差はなんだろう。

 1944年頃だろうか、ヴェロニカは戦地から帰ってきた人にボリスが撃たれた事を知らされる。しかし、彼がボリスが埋葬されたところを見届けたわけではない。その後ボリスに付き添ったステパンに直接聞くまでは信じない、とヴェロニカは気を取り直す。

 戦争が終わって帰ってきたステパンからボリスの死を聞かさる。生きているかも知れないという微かな糸も全く断ちきられ、復員兵や家族達であふれかえる駅を泣きながら歩くヴェロニカ。
 しかし、ボリスは一つの希望を残していた。そのことに気付いたヴェロニカは周囲の人たちに花を贈るのだった。大切な人たちに。

 モスクワの空を鶴が翔んでゆく。

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