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2008年10月28日 (火)

映画「MONGOL」

Mongol2モンゴル

2007年ロシア/カザフスタン/ドイツ/モンゴル
監督:セルゲイ・ボドロフ
音楽:トーマス・カンテリネン/アルタン・ウラグ
キャスト:
テムジン(チンギス・ハーン)…浅野忠信
ボルテ…フラン・チュルーン
ジャムカ…スン・ホンレイ(孫紅雷)
タルグタイ…アマドゥ・ママダコフ
子供の頃のテムジン…オドナン・オドスレン
エスゲイ…バーサンジャプ

注意。先入観なしで見たい人は読まないでください。
劇場公開時に書いたネタバレなしの感想はこちら
Semenovs_footnotes
 タングート(西夏)から解放され久しぶりに家族と再会して幸せそうなテムジンにボルテが問う。
「モンゴルって何?」
この問いに対してテムジンはきちんと答えることができない。
「オレはモンゴルだよ」
と言うに留まる。もっとも、この問いに対するまっとうな答えなんてみたことないけどな。

 例えば『集史』。
 イランに行って国を建てたモンゴルの人たちは、ある者はモンゴル語を忘れ、祖先の勲功を忘れ、あるいは本来「モンゴル」と呼ばれていなかった部族の者がイル=ハンの威光を頼って自らをモンゴルと呼んだりして、「モンゴル」とはいったいどういう人たちなのかわからなくなってしまっていた。そんな中で宰相ラシードが『集史』を書いた動機のひとつは、「モンゴルとはこういうもんだ!」と若い人たちに教え諭すことだったのではないだろうか。
 しかし、その『集史』でさえダブルスタンダード的なところがあり、「モンゴルとは何か」を定義することに成功したかといえば、そうでもない。真剣に取り組んで考えた人ほど、単純明快な答えは出せないのだ。
 この映画の題名が「チンギス=ハーン」とか「成吉思汗の生涯」でなく「モンゴル」なのは、「民族とは何か」にも通じるこの問いが隠しテーマとなっているからだろう。個々のエピソードは随分『元朝秘史』を使っているのに、全体として『集史』くさい印象を受けるのは、同じテーマを取り上げているからではないだろうか。もちろん、ヨーロッパの人たちが読む順番としては『集史』→『秘史』だから、というのもあるんだろうが。

 テムジンがタングートという城郭に住む民に長いこと囚われていた、というのは「モンゴルとは何者か」を考える上では必須の要素だったんだろう。いきなりタングートのシーンで始まるのはなぜか、そう考えると見えてくる。
 もう一つ、映画の中でフェルトの家に住む民とは異質なものとしてメルキトが出てくる。『集史』にはメルキトが森の民(ホイン・イルゲン)と書かれている箇所はないが(むしろ、タイチウトがたびたび「森の民」と呼ばれている)、ここでは円錐形のテントに住む森の民として描かれている。これもかなりあれっと思うところだ。タイチウトはアラン=ゴアの子孫であり間違いなくモンゴルの一部族だから、これを森の民風に描いてしまったのではテーマがぼやける。なんつーか、わかっててやったな(笑)。ビジュアル的にもああいう変な格好(モンゴルから見て)したのが出てくるとおもしろいしな。

 ま、いずれにせよ、隠しテーマはあーだこーだと詮索するのも無粋な話で。世界の半分を支配する大帝国を築いたテムジンの若い頃の冒険譚(と強くて賢いボルテの大活躍)をもう一回見よっと。タルグタイとジャムカとしてみると何の違和感もないんだけど、ママダコフと孫さんが競演してるんだよなって考えながら見ると、なんだかシュールで気に入ってるんだぁ(笑)。

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2008年10月19日 (日)

映画「蛙になったお姫さま」

Lyagushka蛙になったお姫さま

1954年ソ連
監督:ミハイル・ツェハノフスキー

 こ、これ、動きがすごい。アニメ特有の誇張した動きじゃなくて、舞台で俳優が演じている動きそのものだ。モーションキャプチャ以上にそのものだ。もう最初の一コマ見ただけで衝撃的だった。
 それでいて、いろいろなものの原点って感じがする。三頭の火を噴くドラゴンって、悪い竜の典型的イメージなんだろうな。三人兄弟の一番下が貧乏くじを引くってのも。ちょっと馬鹿っぽい所も。でも馬鹿正直だから、結局は報われるんだけどね。
 悪の大魔王は冬の擬人化ということでホッとした(何が?)。キラキラ輝いて美しいし、美しさが永遠に保たれるにしても、そこは死の世界っていうのがやけにリアル。寒い国ならではのリアリティだ。
 バーバ・ヤガーが随分男前(?)だったのは意外だ。ヤガー婆さんって恐いんだけど親近感を持ってるって事なのかな? ヤガー婆さんの家ってああいう風に動くんだねぇ。おもしろい。

 こういうのを子供の頃からたれ流しにして見せとくと、ロシアをたの基礎が形作られる事間違いなし、と書いてやろうと思って見始めたが、このお姫さま、今の日本の子供にはお姫さまと認識されなそうな気がした。いや、自分がそう思ったからなんだけど、等身から顔から服装から若くて美しいお姫さまに見えないよなぁ、写実的すぎて。少女マンガの顔からはみ出すほどぱっちりとした大きな目にはげげって思うし、最近アニメってほとんど見てない自分でも、子供の頃からたたき込まれているので既に相当毒されてたって事か。

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2008年10月16日 (木)

映画「ロシアン・ブラザー」

Bratロシアン・ブラザー

1997年ロシア
監督: アレクセイ・バラバノフ
キャスト:
ダニーラ…セルゲイ・S・ボドロフ
ダニーラの兄…ヴィクトル・スホルコフ
スヴェータ…スヴェトラーナ・ピシミチェンコ
ケット…マリヤ・ジューコヴァ
ドイツ人…ユーリィ・クズネツォフ

 普段ほにょほにょ~としてて癒し系の弟(ダニーラ)が実はものすごく強くて、懸命に自分を大きく見せようとでかい事ばっかり言ってる兄がいざって時には役立たずって、こういう兄弟いるいる。でも普通の生活では、本当の強さを発揮する機会ってないだろうから、要領の良い兄の方が世間的に評価されがち。映画の中でも、母親は兄を褒めちぎってる。
 秋の長雨で湿っぽいサンクトペテルブルク…。でも手袋してコート着てスイカ食ってたりよくわからない季節感だな。陰気な街の雰囲気がまたいい。自分が住みたいとは思わないが(ピーテルファンごめんなさい)。
 兄はサンクトペテルブルクで成功を収めているといわれてやってきたものの、端からダニーラに自分が請け負ったマフィアの大物殺しを押しつけたりして、どうもハッタリっぽいのだ。うーん、大丈夫かなダニーラ…とハラハラしたけど、心配は無用だった。スゲー格好いい。

 これ、出てくる人皆憎めない感じでかわいいな。用心棒のくせにダニーラにぶっとばされて、犬みたいにピスピス鼻を鳴らしている警備員の兄ちゃんさえかわいい。見た目はコワモテだけど。
 それでダニーラもかわいいんだけど、ちゃんと筋を通す男だ。弱きを助け強きをくじく正統派ヒーローっぽくもあるが、自分なりの正義とやらをはっきり持ってるわけでもなし、自分が何をやって良いのかよくわかってないようだ。親しくなった通称「ドイツ人」に
「人はなんのために生きるのか?」
なんて聞いてるし。
 そんなんで、普通の人たちの世界をいいなぁって感じで見ているけれども、自分もそこに入っていこうとあがいたりしないし、ましてやねたんだりしない。素直な善いヤツなんだろうけど、善人というには暴力的だし、やり方が洗練されてるのはあれか、軍隊で鍛えられちゃったのか。本人は司令部で事務官してたって言ってるからはっきりとはわからないけど。そもそも軍隊で得た技術・知識なんか、普通に生活していく上で役に立たないんじゃないか。一番仕事を覚えられる若い時期に何年も徴兵って、職業軍人でやっていく人以外には害でしかないような気がするんだが…。

 そうそう、本筋に関係あるのかないのか、ドイツ人の言う「ロシアの善はドイツの死」なんて諺?は笑った。戦争がなければ、ロシア人ってドイツ人割と好きじゃないかと思うんだが。好きっていうか、あこがれっていうか、勝手にライバル視して張り合ってるっていうかそんな感じの好き。ツンデレってやつですかね。

セルゲイ・ボドロフ(息子の方)主演の映画→「ベアーズ・キス

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2008年10月 4日 (土)

映画「デイ・ウォッチ」

デイ・ウォッチ/ディレクターズ・カット

2006年ロシア
監督:ティムール・ベクマンベトフ
キャスト:
アントン…コンスタンチン・ハベンスキー
スヴェトラーナ…マリヤ・ポロシナ
ゲッサー…ヴラジーミル・メニショフ
オリガ…ガリーナ・テュニナ
ザヴロン…ヴィクトル・ヴェルフビツキー
アリサ…ハンナ・フリスケ

 おお、ティムールが出てるじゃないの。元気に両足で駆け回ってるぜ……ってなんか変だな。……ま、まぁ、はちゃめちゃなところが見所のファンタジー(ラブコメ風味)に突っ込んでもしょうがないからいいけど(いいのか?)。
 しかし、北イランの話なら、運命を書き換える事ができるチョークを守ってる者がゾロアスター教の神官風だったら萌え萌えなのに。じゃなきゃ、北イランに設定した意味が……(笑)。というか、そもそも、ティムール→古代イランって発想がよくわからん。ミトラス教の入信の儀式なんかフリーメーソンっぽくて格好良いけどさぁ。
 ま、ザヴロンと同じく、私も書き換えたい過去とか特にないから、みんながなぜそんなにチョークに血眼になるのかぴんとこなかったけどね。ティムールみたいにグサッとやられたことないし。あ、闇の側はそんなに欲しがってないか。アントンが欲しがってただけで。

 今回は随分ギャグがわかりやすくっていうか、大げさになってて笑った。
「みんな~、サマルカンドに行きたいか~!」
「イェ~~~(ダァーーー)!」
とか、
寝てると思った人の布団を引っぺがすとクマ~~~!!!
なんて、作った人たち、日本のテレビやマンガ見てるんじゃないの?
 なお、アントンがオリガと身体を交換した後に、これはひょっとしてスヴェトラーナと百合な展開……という妄想が頭をよぎったのは内緒だ。

 ホテル・コスモス、すごく出てるね。あの形、たしかに車が遠心力を利用して走るにはいい形状だけどさ。いや無理だけどさ(笑)。
 そのホテル・コスモスでイゴールの誕生祝いのパーティーが開かれるんだけど、そこで球が炸裂して会場が大混乱になるのがリアルな迫力だなぁ、と思ったら、本当にライフルを撃ちまくって撮影したのね~(メイキングより)。むしろそっちの方がひょえ~~~って感じ。普通逆なのでは?
 でも、好きな男のためにナイフ(食事の時使うヤツ)で自分の指を切断したり、壁一面に男の名前を書きまくっちゃうような女に惚れられたとしたら。むしろその方がリアルホラーかもしらん(笑)。

 なお、ロシアでは大岡裁きが通用しないことはよくわかった(謎)。

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