« 映画「タンカー・アタック」 | トップページ | 映画「赤壁 レッドクリフ part II ―未来への最終決戦―」 »

2009年4月11日 (土)

ドキュメンタリー「スターリンについて知っているいくつかのこと」

Stalinスターリンについて知っているいくつかのこと

2003年ロシア
監督・ディレクター:ヴァシーリィ・ピチュル




 「民族」というものには学者の間にも共通の定義がないそうだが、そういう中でも必ずスターリンによる定義「言語、地域、経済生活、および文化の共通性のうちにあらわれる心理状態」は引き合いに出される。批判や反対意見も多いようだけれども、今でもたたき台として使えるというのはなかなかすごいことじゃないかと思う。

 そういうわけで、「スターリンは悪」と決めつけて評価終わりにしている人を見ると、そうなんだろうかと疑問に思わずにはいられない。それって、「スターリンは神」というのと同じくらい間違っているんじゃないだろうか。

 2003年はスターリン没後50年だったためか、あの現象は何だったんだろうということでスターリンについての映画やドキュメンタリーが各国でいくつか制作されたようだ。これはロシア国営テレビ制作のもの。

 国民総懺悔みたいなソ連崩壊後の茫然自失からようやく立ち直り、精神的にも経済的にも落ち着いてきて良いことも悪いこともそのまま受け止めようというロシアの余裕のようなものが感じられる。
 スターリン時代のことを知ってる人も少なくなって客観的に見ることができるようになってきた反面、個人崇拝や自国民の大量虐殺を取り上げてスターリンは悪の元凶だと決めつけるか、ドイツへの勝利やソ連を超大国に引き上げた功績を評価して偉大な指導者だと褒めそやすか両極端になりがちなのもよく知らないからじゃないだろうか。どっちかじゃないだろう。人って善か悪かの二つに一つに分けられるほど単純ではない。

 全体の印象としては「鉄の男スターリン」もずいぶん優しい感じになっている。それは、肉親らスターリンの身近にいた人たちのインタビューが主となっているためだろう。スターリンを好きな人たちの証言である。近くにいてスターリンを嫌いな人たちは生きてないよ、とも言えるが、娘や孫には甘い父もしくは祖父で周囲のプレッシャーも比較的弱かったというのは納得できる話だ。二人の息子は、「偉大な」父が何を望んでいるのかわからず戸惑い萎縮して、結局、父より先にあまり良くない形で人生を終えている。

 スターリンが革命の時不在だったのはナジェージダ・アリルーエヴァを口説いていたからだ、というのは単なるアネクドートだと思っていたが、本当の話だとは。微笑ましいエピソードではある。ところが、のちにナジェージダは鬱病のためピストルで自殺してしまう。娘のスヴェトラーナが成人して母の死の真相を話さねばならなくなった時、
「こんな父を見たくはなかった」
と言わせるほど後々まで引きずっていたという。だからといって、他の女性を愛する事を妨げないのだけれど。
 当時、ナジェージダの死は病死と公式発表されたらしく、それがソ連らしいスキャンダル隠蔽体質の好例とされ、果てはスターリンが射殺したのだという陰謀説を生んだことは現在の我々も知っているとおり。家族の受けた衝撃の大きさを思うと、本当のことが言えなかったのもしかたなかったのかもしれない。公人だからこういうことはありのままに公表すべきなのだろうが、他人が好奇心で遺族の心の傷口に手を突っ込んでまさぐるような事をしてもいいのか、という気持ちもある。

 第3部では、映画「ベルリン陥落」のラストシーンが印象的に使われている。取りようによっては大変な皮肉なんだが、実は「ベルリン陥落」って無意識のうちに真実がにじみ出てる深い映画だったんじゃないかという気がして、もう一度見たくなった。
 「ベルリン陥落」のラストシーンでは群衆がわぁっと歓声を上げてスターリンに駆け寄る。
 それは、スターリン時代とはまさにこういう時代だったのだ、ということを象徴的に表しているように思える。

Semenovs_footnotes

 スターリンをめぐる人たち……粛正の犠牲になった政治家や軍人にもひととおりの言及はある。トゥハチェフスキーやトロツキー等々ですね。ああ、そうだよな、と思える解釈だった。スターリンの犠牲になったからといって善人じゃないんだよ。例えば、トロツキーが政権を取ってたらソ連はもっと人間的な国になっていたかと言えばそんなことはない。
 トロツキーといえば、トロツキーの演説上手はヒトラーもお手本にするぐらいだったとか。比較のためにトロツキーとヒトラーの演説シーンが並べられていて、あまりにもソックリで驚いた。同じ文化圏に属していて非言語コミュニケーションの部分は共通しているのだろうが、それにしても似てる。それだけヒトラーが勉強家で良いものは貪欲に取り入れたって事なんだろうか。
 あと笑ってしまったのは、ベリヤが言ったというセリフにピー音が入ってる事とか。なんだよ、思ってたとおりのヤツじゃん。また、スターリンの臨終にはスースロフが文字通り駆けつけたとか。この人、こんな時代からいたんだ。妖怪だってのは本当の話だったんだな。

|

« 映画「タンカー・アタック」 | トップページ | 映画「赤壁 レッドクリフ part II ―未来への最終決戦―」 »

ソ連」カテゴリの記事

ロシア」カテゴリの記事

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/198713/44641017

この記事へのトラックバック一覧です: ドキュメンタリー「スターリンについて知っているいくつかのこと」:

« 映画「タンカー・アタック」 | トップページ | 映画「赤壁 レッドクリフ part II ―未来への最終決戦―」 »