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2009年6月27日 (土)

ドキュメンタリー「KGBシークレット・ファイルズ 日露の戦い ~諜報合戦~」

KGB シークレット・ファイルズ 日露の戦い~諜報合戦~ [DVD]
Duel

2004年ロシア
制作:TV CHANNEL RUSSIA

 シベリア単騎横断でおなじみの福島安正から始まったので、何やらトンデモなものかも?!と思ってヒヤヒヤドキドキしながら見始めたが、実に真摯な日本とロシアの交流史であった。明治政府辺りのことはよく知らなかったので、通史的に知る事ができてとても良かった。
 日露戦争など日本にとって重要な歴史的な出来事でロシアと深く関わっているにもかかわらず、学校の歴史の授業ではごく浅くしかやらなかったような気がする。伊藤博文暗殺事件についても、それがロシア領(鉄道の敷地内のため)で起こったために両国間の懸案になったなんて知らなかった。

 というわけで「諜報合戦」と銘打ってはいても、既に歴史になっている時代を扱っているうえに軍事情報中心なので、それほどえぐい話はでてこない。

 むしろ「日本、敵ながらあっぱれ」という感じのドキュメンタリーになってる。福島は新生日本に情報機関をうまく組織した有能な軍人に描かれており、彼の組織に完敗したロシアが反省して努力を続けた結果、第二次世界大戦で雪辱を果たす、という流れになっている。
 しかし、その間ロシア革命やら大粛正やらあって、ロシア~ソ連の情報機関の人員はめまぐるしく変わっているはずで、そういった国家百年の計みたいな長期目標を継承して来れたのか非常に疑問に思うところではある。例えば、ゾルゲの上司なんて何度も替わっているうえに引き継ぎがちゃんとできていないではないか。
(『KGBシークレット・ファイルズ スパイ・ゾルゲ~裏切りの特派員~』参照。)

 とはいえ第二次世界大戦の結果は実際あの通りであって、見終わったあと、やはり「ロシアさん、執念深いなぁ」という印象が残る。

 解説によると、このドキュメンタリーはあまりにも親日的だという理由で編集し直されているそうだ。事実の羅列に親日も反日もあるか、と思うのだが、確かに福島ばかりでなく広瀬武夫や乃木希典、内田良平等々、誠実で信念のある人に描かれている。特に広瀬は悲劇のヒーローみたいになってる。
 しかし、ソ連のためにダブル・エージェントになった人物を日本のスパイとして処刑してしまったソ連側に対し、日本側の情報将校は最後まで彼を守ろうとして口を割らなかったケースなどは、日本びいきというよりは粛正に次ぐ粛正で有能な人たちの虐殺を繰り返してきたソ連の治安機関に対する皮肉にも見えるのだが…。
 そう考えると、このドキュメンタリーはロシア=ソ連軍びいきなのであって日本びいきではなく、NKVDなどの治安機関に対するあてこすりが結果的に親日的に見えたというだけかも知れないので、ロシア人は親日的だと油断してはいけないのである(笑)。


 このてのものを見る人は、OGPUとかNKVDとか当然知っていることになっているらしく、解説がない。ソ連の情報機関はたびたび名前が変わっているので、タイムラインにまとめてみた

もっとも、軍事情報だとGRUなんだが…。

参考文献:
ロシヤにおける広瀬武夫 上 (朝日選書 57)
ロシヤにおける広瀬武夫 下 (朝日選書 58)
ツシマ〈上〉バルチック艦隊遠征
ツシマ〈下〉バルチック艦隊壊滅

※日露戦争については、アジア歴史資料センターで「日露戦争特別展 公文書に見る日露戦争」を開催しているのでそちらも参照。

悪魔の飽食 新版―日本細菌戦部隊の恐怖の実像! (角川文庫 も 3-11)

※なお、ゾルゲ事件については
KGBシークレット・ファイルズ スパイ・ゾルゲ~裏切りの特派員~
ノモンハン事件については
KGBシークレット・ファイルズ ノモンハン事件~第2次世界大戦への爪跡~
にまとめたのでそちらをどうぞ。

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2009年6月19日 (金)

ドキュメンタリー「KGBシークレット・ファイルズ スペース・ドッグス~実験・宇宙犬~/青い血の秘密~フェイク・ブラッド~/恐怖の核実験~世界終焉への予行演習~」

KGB シークレット・ファイルズ スペース・ドッグス~実験・宇宙犬~/青い血の秘密~フェイク・ブラッド~/恐怖の核実験~世界終焉への予行演習~ [DVD]
Spacedogs_2

2004年ロシア
制作:TV CHANNEL RUSSIA


スペース・ドッグス~実験・宇宙犬~

 例のライカの話である。
 ライカの乗ったスプートニク2号は無事楕円軌道にのったものの、予定していたより太陽に近づき過ぎ、カプセル内の温度が急上昇して…。
 ライカが地上に戻る事はないと最初からわかってはいたけれども、苦しんで死んだに違いない事は実験に参加した人たちの心にしこりとして残っている。

 それにしてもおとなしい犬だな。その辺から野良犬をいわば「徴兵」してきてアストラハンの施設(今は廃墟)で訓練したそうだから、由緒正しい血統書付きの犬でもなければ子犬の頃から英才教育を受けた天才犬でもない。中には飛行直前に脱走した犬もいたそうだが、宇宙船内の映像ではどの犬も鳴いたり暴れたりしていない。原題の「宇宙野良犬部隊」ってなんだか人間を主人公にしてもありそうな題名だな。

 犬は群れで行動する動物だから、群れに所属してその中に自分の居場所を得、賢いリーダー(飼い犬なら人間)の命令に従って行動することに苦痛はなかろう。むしろ犬の自然な姿ではないだろうか。死というものを理解しないにしても、自分がリーダーに信頼され、群れの中で大切な役割をしているということはわかるのではないか。
 実験時に命を落とすのも、大きな獣に群れで襲い掛かかった時、蹄や角に引っかけられて死ぬのと犬にとっては大差ない気がする。

 特殊な才能を持って生まれながら、その能力を一度も使うことなく毎日かわいいかわいいとなでられ、食べるものにも不自由せずに一生を終えるペットとどちらが犬にとって幸せなのか。
 それは犬にしかわからない。


青い血の秘密~フェイク・ブラッド~

 人工血液の開発に文字通り命をかけたアストラハン出身の医師、ベロヤルツェフの死をめぐる疑惑。

 人工的な血液の代替物というと思い浮かぶフルオロカーボンは乳白色だが、ベロヤルツェフの開発したペルフトランは日に透かすと青っぽく見える程度の透明な液体のようだ。
 ようやく「KGBシークレット・ファイルズ」の題名に相応しい謎めいたおどろおどろしい話が出てきたぞ、とミステリーを見るようなお気楽・他人事気分で見ていたら、事件の淵源に話しが及んだとたんに飛び上がりそうになった。
 うっわー、それってミドリ十字だろ? いやいや、マジヤバイから。というか、「歴史」として語るにはまだ生々しすぎる話だ。
 …でも、内藤良一は1982年7月7日没だから。機密でも何でもない。ウィキペディアにも出てる。
 そんな感じで、じっくり見ても知識がないので手も足も出ず、もやもやしたスッキリしない気分だけ残る話なので、医療分野に詳しい方のツッコミ希望。

 それにしても、厚労省まわりの案件って何もかも黒いのな。


恐怖の核実験~世界終焉への予行演習~

 1954年9月14日。
 南ウラルのトツコエで軍事演習が行われた。当時は核戦争がリアルに差し迫った脅威であったため、より演習を実戦に近付けるために核兵器が使用された。
Totskiypoligon

 機密解除された演習の記録映像はたぶん宣伝用なんだろう。一般的には公開されていなかったとしても、例えば友好国の軍や政府の高官に見せてソ連の軍事力を誇示するために使われたもののようで、なるほどこれなら公開しても差し障りないと思える内容だ。しかし、それがかえって恐ろしい。このドキュメンタリー、どういう内容か知らずに漫然と見始めたので、
 え? 演習だよ?
 まさか実際に核爆弾使わないよな?
 4万5千人以上の兵士が参加してるんだよ?
 実戦さながらって言ってもまさか本当に地上で爆発させないよな?
 シミュレーションだよな?
信じられない思いで何度も問い返しつつ見た。ところが、爆発のタイミングさえよく制御できない段階の核爆弾を本当に爆撃機で投下したんである。
「背中にアイロンを当てたような熱を感じた」
「白い攻撃機が雲に突入して、出てくると真っ黒になっていた」
「防御服を脱いで作業した」
といった話が続出で絶句する。

 ところで、いわば火消し役でインタビューに答えている軍事史家のマフムード・ガレーエフって元の名前はガレイ(ギレイ)でハンの血筋の人? とか思った。
 まぁ、それは本題に関係ないが、ガレーエフ氏も演習に参加しており、この演習の指揮を執っていたゲオルギー・ジューコフ元帥も核爆発の瞬間にシェルターに入らずに爆発を見ていたという。そして、核爆弾で死んだ者は一人もいないとガレーエフ氏は強調する。
 「ヒロシマ」という単語は皆知っていても、放射能の危険はそこじゃないと誰もわかっちゃいなかったのだ。もしくはわかりたくなかった。兵士は核の直撃に耐え、一定時間(5時間とか)戦闘を行って敵に反撃することができれば充分で、以後のことは軍の知った事じゃないのだ。だから追跡調査も行わない。

 日本以外の国は他国からの核攻撃を受けたことはない。しかし、全ての核保有国でこの手の話はあるわけだ。ソ連の例は極端かもしれないが、核がどちらの側に牙を剥いているのか、核の傘に守られていると主張する人は一度点検してみると良い。

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2009年6月12日 (金)

映画「ストリート・レーサー」

ストリート・レーサー [DVD]

2007年ロシア
監督:オレーク・フェセンコ
キャスト:
ステパン…アレクセイ・チャドフ
カーチャ…マリーナ・アレクサンドロヴァ
ドッカー…スタニスラフ・ボンダレンコ
カーチャの父…ニコライ・チンジャイキン
モコフ父…アレクセイ・グシコフ

 ステパンが兵役を終えて帰ってきた。元戦車乗り、初めて乗るセリカでサンクトペテルブルグの市街地をぶっ飛ばす彼に、皆は「T-34」というあだ名を付けた。

 セリカの持ち主、カーチャはストリートレーサー・グループのリーダー、ドッカーと最近別れたばかり。でもドッカーが他の女の子といちゃいちゃしていると心穏やかではいられない。こう言っちゃ女性に怒られるかもしれないが、いやまったく
「怒った顔もカワイイね」
って感じ。カーチャやドッカーの浮気相手の女の子が綺麗な顔を屈辱や嫉妬で歪め、細い指をブルブル震わせてタバコに火を付ける様がなんとも。
 しかし、道行く女の子たち、あんなひらひらのスカートでパンツをはいてない。そんなもんなんだろうか。それじゃあ暴走車が通るたびにぴら~っておしりが出ちゃうだろ。え? Tバックとかですか? 私見事に欺されてますか?(笑)

 派手に車が転がる転がる。横転、前方転回、空中分解に爆発。冒頭では戦車もびょんびょん跳んでた。いつも不思議に思うんだけど、戦車がジャンプして大きく跳ねる映像ってよく見る。あれって中の人はどうなってるんだろう?
 そうそう、サンクトペテルブルクの跳ね橋はかちどき橋と違ってちゃんと稼働してるから、期待通りジャンプもしてくれる。
 で、最後にはドッカーとステパンがニッサン350Zとフェラーリ512TRで対決するんだが、実際のところ勝負になるのかな? カーチャがセリカで狭い露地まで入り込んで身軽に動き回ってパトカーを翻弄するのはありそう?なんだけどさ。

 交通警察との絡みがおもしろい。取締の理不尽さ加減は日本の比でないのか、茶化して大袈裟に言ってるだけのか、交通警察に対する普通の人の反応がいちいち可笑しい。カーチャの親父も取り締まる側なんだが、この親父かなり酷い。娘が連れてきたステパンをいたく気に入り、酒を勧めて彼が車だからと断ると
「気にするな、わしも飲酒運転だ」。
「免停になったときはわしに委せろ」
とも言ってる。
 そもそも、あれだけ目立つ車で公道レースをやって、拠点もわかってるのに捕まえられないなんて警察はどれだけ能なしなのか。こっくりさん(ウィジュ板方式)でこのストリートレースの開催場所を占っていたりして駄目だこいつら…。

 でもこれには裏があるんである。

アレクセイ・チャドフが出演している映画:
レッド・スナイパー 独ソ最終決戦」「チェチェン・ウォー」「ナイト・ウォッチ」「デイ・ウォッチ」「ヴィイ(邦題未定)

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2009年6月10日 (水)

映画「特殊部隊エスヴェーエル S.V.R」

特殊部隊 S.V.R [DVD]

2003年ロシア
監督:セルゲイ・アコポフ/オレーク・ポゴジン
キャスト:
ヴィクトル・ブィストロリョートフ(トラベラー)…ヴァレーリィ・ニコラエフ
リタ・ノヴォショーロヴァ…マリヤ・キッヴァ
ロコトフ大将…ユーリィ・ソローミン
カズナチェーフ…ヴァシーリィ・ミシェンコ
マルシャンスキー(スモーカー)…パーヴェル・デレヴャンコ
コフチューギン兄(キング・コング)…ヴラジーミル・トゥルチンスキー
コフチューギン弟(ゴジラ)…ドミートリィ・デュジェフ
ヤン・ヴァンタル局長…オレーク・シテファンコ
マダム・ゴール…ナターリヤ・ボルトニコヴァ

 大昔見てた「スパイ大作戦(Mission:Impossible)」みたいな話だなー、マトリックスっぽい映像だよなーと思ったら、原題「遂行不可能な任務」か? まんまじゃん。銭形警部からみたルパン三世っぽくもあるが(ただし相手はルパンでなく峰不二子)。

 潜入捜査を得意とし、おそろしく身の軽い主人公のヴィクトル、主に拠点となる車で機器の操作をしてる眼鏡くんのマルシャンスキー、体育会系のコフチューギン兄弟、主人公に好意を寄せるショートカットのできる女リタ、ボス的ではない彼らの上司カズナチェーフ局長、彼らに理解のあるお偉方のロコトフ将軍。
 この人たちを中核に個々のエピソードによって多少出入りがある。でも、こういうレギュラー陣の中に入ってくる人ってそれだけで死亡フラグだよなぁ(笑)。

 ちゃんとイヤなやつは死に、爆発は大爆発、格闘シーンは主人公が体操選手かってほど柔らかな動きをし、女同士の戦いではネイルチップがババっとはじけ飛ぶのが格好いい。日曜の夜なんかに何も考えずに気楽に見るにはちょうど良い。あんまりじっくり見てしまうと、
「こいつら実はあんまり優秀じゃないんじゃ…」
と思うようなところが多々あるもので…。通しで見るとお手軽じゃない長さなので前後編になってるのかも。

 第一部で重要な役割をするのは猫。
 グルザという謎のテロ組織からニューヨーク、東京、モスクワのどこかを爆破する、という予告電話が入る。中東のどっかの国の大金持ちシェイバニもグルザに資金提供しているらしいと疑われているが、はっきりしたことはわからない。そこで、大がかりな仕掛けを用いてヴィクトルがシェイバニの身近なところに潜入する。味方に犠牲を出しながらも、ヴィクトルはシェイバニの信頼を勝ち取り、ボディーガードとして屋敷に入り込むことができた。
 待つこと数日。お待ちかねの客が来た。屋上でべこべこ音がするのでぎょっとする客(ギュンター)にシェイバニが言う。

シェイバニ:ああ、猫がいるんだ
猫:(足元で)なごーん
一同:?!

じゃあ屋根にいるのは誰だ? ……もうおわかりですね(笑)。

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2009年6月 5日 (金)

ドキュメンタリー「KGBシークレット・ファイルズ 世紀の取引~激突!諜報戦争~」

KGB シークレット・ファイルズ 世紀の取引~激突!諜報戦争~/コードネーム“トパーズ”~超大物スパイの真実~ [DVD]
U22004年ロシア
制作:TV CHANNEL RUSSIA

U-2撃墜事件
 1960年5月1日、スヴェルドロフスク(現エカテリンブルク)上空でアメリカのU-2偵察機が撃墜された事件。パイロットのフランシス・ゲーリー・パワーズは脱出して捕虜になった。パワーズはソ連の裁判で有罪判決を受けたが、1962年2月10日アメリカでスパイ罪で服役中のルドルフ・アベル(ウィリアム・フィッシャー)と交換で帰国した。

 U-2撃墜の状況がパワーズの息子らの証言で生々しく語られる。
 当時のソ連にはU-2の飛ぶ2万m以上の高度にまで到達できる迎撃機がなく、ろくにテスト飛行もしていないSu-9で体当たりを試みるが失敗。地対空ミサイルもその高度には届かず結局U-2には当たらなかったらしい。『ペンコフスキー機密文書』によるとミサイル爆発の衝撃波で破壊されたのだという。U-2迎撃のためにその場にいて自軍のミサイルに直撃されたMiG-19のパイロットは死亡しているにもかかわらず、U-2はきりもみ状態で落下してパワーズには脱出する時間があったのだからたぶんその通りなのだろう。
 このドキュメンタリーでははっきり当たらなかったとは言っていないが、衝撃波でもミサイルの破片でもまぁ、ミサイル防空システムでU-2を撃墜したには違いないからフルシチョフは自慢して良し。

 パワーズの落ちてきたところに駆けつけた村人の反応が「UFO少年アブドラジャン」の宇宙人を見た村人の反応みたいで笑ってしまった。

 U-2の落ちたスヴェルドロフスクってロシアの真ん中の方なんだよなぁ。ここをアメリカの偵察機が飛んでくって今からみるとすごい。しかもメーデーに。サミット直前にこれが挑発行為じゃないなら何だ。日本の上空を北朝鮮のミサイルが飛んでくのなんか比べものにならないぞ。

 パワーズの交換相手、アベル大佐ことウィリアム・フィッシャーが何をしていたのかは、全てが詳らかになっているわけではなさそうだ。アメリカでの活動は裁判で明らかになっているのだろうが…。
 しかし意外だったのは、フィッシャーは帰国後特に何の栄誉も受けなかったという話。西側や日本の報道では、レーニン勲章を授けられたと言われているのだが(例えば「BBC 世界に衝撃を与えた日―22―~U-2偵察機撃墜事件と米ソ冷戦下のスパイ交換~」)。
 このことや、フィッシャーの娘さんが語る彼女の母親へのプロポーズの言葉を聞いて、

死して屍拾う者なし
死して屍拾う者なし

という「大江戸捜査網」のナレーションが頭の中に流れたよ。

 それにしても、いくつか不思議なことがある。
 「アベルがソ連と関係している事を隠し通さなければならない」って事でソ連側が苦心する様子が描かれているけれども、これなんて本当に「???」だ。この期に及んで意味なくないかな。
 あと、アメリカ側が理論的には撃墜不可能なU-2がどうして撃墜されたのか知りたくてパワーズを尋問したかったっていうのはわかるにしても、ソ連側も飛行高度をしつこく聞いたというのはなんか変な気がする。レーダーで追跡できてなかったのかな?
 それから、西側や日本で既に知られている以上のネタがあまりないこと。
 旧ソ連ではこっちでどう報道されているかはわからなかっただろうから、ロシアの視聴者にはそういう視点が新しいのかもしれないが、カプリングされている「コードネーム”トパーズ”~超大物スパイの真実~」(こちらは東ドイツの話。マルクス・ヴォルフ・ファン必見←いるか?)と合わせると、すべて筒抜けだったという事なのだろうか。

 あるいはまた、既に知られている事以上のことは暴露しないぞ、というメッセージなのかな。…考え過ぎか。


同じテーマのドキュメンタリー:

BBC「世界に衝撃を与えた日22 U-2偵察機撃墜事件と米ソ冷戦下のスパイ交換」
ちょっと古い感じもするが、あわせて見るとおもしろい。大物の「アベル大佐」と撃墜されておめおめと捕虜になったへたれパイロットを交換するなんてとんでもない、という意見がアメリカでもあったとか。パワーズは自殺用の毒針を持っていたが、それは使われることなく押収されてスヴェルドロフスクの博物館に展示されている。

※グリニケ橋の交換シーンで場面で引用されている「デッド・シーズン」。そんな映画があったのか、それは見て是非みたいと思って探したらソ連の映画だった(「Мёртвый сезон」1969年ソ連)。

参考文献:
■キリル・ヘンキン著/尾崎浩訳『ソ連のスパイ (1983年)』(新評論)
■オレグ・ペンコフスキー著/フランク・ギブニー編/佐藤亮一訳『ペンコフスキー機密文書 (1966年)』(集英社)
(文庫化されているようだ→『寝返ったソ連軍情報部大佐の遺書 (集英社文庫)』)
■パーヴェル・スドプラトフ/アナトーリー・スドプラトフ著/木村明生監訳『KGB 衝撃の秘密工作〈下〉』(ほるぷ出版)

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