ドキュメンタリー「KGBシークレット・ファイルズ 日露の戦い ~諜報合戦~」
KGB シークレット・ファイルズ 日露の戦い~諜報合戦~ [DVD]
2004年ロシア
制作:TV CHANNEL RUSSIA
シベリア単騎横断でおなじみの福島安正から始まったので、何やらトンデモなものかも?!と思ってヒヤヒヤドキドキしながら見始めたが、実に真摯な日本とロシアの交流史であった。明治政府辺りのことはよく知らなかったので、通史的に知る事ができてとても良かった。
日露戦争など日本にとって重要な歴史的な出来事でロシアと深く関わっているにもかかわらず、学校の歴史の授業ではごく浅くしかやらなかったような気がする。伊藤博文暗殺事件についても、それがロシア領(鉄道の敷地内のため)で起こったために両国間の懸案になったなんて知らなかった。
というわけで「諜報合戦」と銘打ってはいても、既に歴史になっている時代を扱っているうえに軍事情報中心なので、それほどえぐい話はでてこない。
むしろ「日本、敵ながらあっぱれ」という感じのドキュメンタリーになってる。福島は新生日本に情報機関をうまく組織した有能な軍人に描かれており、彼の組織に完敗したロシアが反省して努力を続けた結果、第二次世界大戦で雪辱を果たす、という流れになっている。
しかし、その間ロシア革命やら大粛正やらあって、ロシア~ソ連の情報機関の人員はめまぐるしく変わっているはずで、そういった国家百年の計みたいな長期目標を継承して来れたのか非常に疑問に思うところではある。例えば、ゾルゲの上司なんて何度も替わっているうえに引き継ぎがちゃんとできていないではないか。
(『KGBシークレット・ファイルズ スパイ・ゾルゲ~裏切りの特派員~』参照。)
とはいえ第二次世界大戦の結果は実際あの通りであって、見終わったあと、やはり「ロシアさん、執念深いなぁ」という印象が残る。
解説によると、このドキュメンタリーはあまりにも親日的だという理由で編集し直されているそうだ。事実の羅列に親日も反日もあるか、と思うのだが、確かに福島ばかりでなく広瀬武夫や乃木希典、内田良平等々、誠実で信念のある人に描かれている。特に広瀬は悲劇のヒーローみたいになってる。
しかし、ソ連のためにダブル・エージェントになった人物を日本のスパイとして処刑してしまったソ連側に対し、日本側の情報将校は最後まで彼を守ろうとして口を割らなかったケースなどは、日本びいきというよりは粛正に次ぐ粛正で有能な人たちの虐殺を繰り返してきたソ連の治安機関に対する皮肉にも見えるのだが…。
そう考えると、このドキュメンタリーはロシア=ソ連軍びいきなのであって日本びいきではなく、NKVDなどの治安機関に対するあてこすりが結果的に親日的に見えたというだけかも知れないので、ロシア人は親日的だと油断してはいけないのである(笑)。
このてのものを見る人は、OGPUとかNKVDとか当然知っていることになっているらしく、解説がない。ソ連の情報機関はたびたび名前が変わっているので、タイムラインにまとめてみた。
もっとも、軍事情報だとGRUなんだが…。
参考文献:
ロシヤにおける広瀬武夫 上 (朝日選書 57)
ロシヤにおける広瀬武夫 下 (朝日選書 58)
ツシマ〈上〉バルチック艦隊遠征
ツシマ〈下〉バルチック艦隊壊滅
※日露戦争については、アジア歴史資料センターで「日露戦争特別展 公文書に見る日露戦争」を開催しているのでそちらも参照。
悪魔の飽食 新版―日本細菌戦部隊の恐怖の実像! (角川文庫 も 3-11)
※なお、ゾルゲ事件については
『KGBシークレット・ファイルズ スパイ・ゾルゲ~裏切りの特派員~』
ノモンハン事件については
『KGBシークレット・ファイルズ ノモンハン事件~第2次世界大戦への爪跡~』
にまとめたのでそちらをどうぞ。
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