ドキュメンタリー「KGBシークレット・ファイルズ 世紀の取引~激突!諜報戦争~」
KGB シークレット・ファイルズ 世紀の取引~激突!諜報戦争~/コードネーム“トパーズ”~超大物スパイの真実~ [DVD]
2004年ロシア
制作:TV CHANNEL RUSSIA
U-2撃墜事件
1960年5月1日、スヴェルドロフスク(現エカテリンブルク)上空でアメリカのU-2偵察機が撃墜された事件。パイロットのフランシス・ゲーリー・パワーズは脱出して捕虜になった。パワーズはソ連の裁判で有罪判決を受けたが、1962年2月10日アメリカでスパイ罪で服役中のルドルフ・アベル(ウィリアム・フィッシャー)と交換で帰国した。
U-2撃墜の状況がパワーズの息子らの証言で生々しく語られる。
当時のソ連にはU-2の飛ぶ2万m以上の高度にまで到達できる迎撃機がなく、ろくにテスト飛行もしていないSu-9で体当たりを試みるが失敗。地対空ミサイルもその高度には届かず結局U-2には当たらなかったらしい。『ペンコフスキー機密文書』によるとミサイル爆発の衝撃波で破壊されたのだという。U-2迎撃のためにその場にいて自軍のミサイルに直撃されたMiG-19のパイロットは死亡しているにもかかわらず、U-2はきりもみ状態で落下してパワーズには脱出する時間があったのだからたぶんその通りなのだろう。
このドキュメンタリーでははっきり当たらなかったとは言っていないが、衝撃波でもミサイルの破片でもまぁ、ミサイル防空システムでU-2を撃墜したには違いないからフルシチョフは自慢して良し。
パワーズの落ちてきたところに駆けつけた村人の反応が「UFO少年アブドラジャン」の宇宙人を見た村人の反応みたいで笑ってしまった。
U-2の落ちたスヴェルドロフスクってロシアの真ん中の方なんだよなぁ。ここをアメリカの偵察機が飛んでくって今からみるとすごい。しかもメーデーに。サミット直前にこれが挑発行為じゃないなら何だ。日本の上空を北朝鮮のミサイルが飛んでくのなんか比べものにならないぞ。
パワーズの交換相手、アベル大佐ことウィリアム・フィッシャーが何をしていたのかは、全てが詳らかになっているわけではなさそうだ。アメリカでの活動は裁判で明らかになっているのだろうが…。
しかし意外だったのは、フィッシャーは帰国後特に何の栄誉も受けなかったという話。西側や日本の報道では、レーニン勲章を授けられたと言われているのだが(例えば「BBC 世界に衝撃を与えた日―22―~U-2偵察機撃墜事件と米ソ冷戦下のスパイ交換~」)。
このことや、フィッシャーの娘さんが語る彼女の母親へのプロポーズの言葉を聞いて、
死して屍拾う者なし
死して屍拾う者なし
という「大江戸捜査網」のナレーションが頭の中に流れたよ。
それにしても、いくつか不思議なことがある。
「アベルがソ連と関係している事を隠し通さなければならない」って事でソ連側が苦心する様子が描かれているけれども、これなんて本当に「???」だ。この期に及んで意味なくないかな。
あと、アメリカ側が理論的には撃墜不可能なU-2がどうして撃墜されたのか知りたくてパワーズを尋問したかったっていうのはわかるにしても、ソ連側も飛行高度をしつこく聞いたというのはなんか変な気がする。レーダーで追跡できてなかったのかな?
それから、西側や日本で既に知られている以上のネタがあまりないこと。
旧ソ連ではこっちでどう報道されているかはわからなかっただろうから、ロシアの視聴者にはそういう視点が新しいのかもしれないが、カプリングされている「コードネーム”トパーズ”~超大物スパイの真実~」(こちらは東ドイツの話。マルクス・ヴォルフ・ファン必見←いるか?)と合わせると、すべて筒抜けだったという事なのだろうか。
あるいはまた、既に知られている事以上のことは暴露しないぞ、というメッセージなのかな。…考え過ぎか。
同じテーマのドキュメンタリー:
BBC「世界に衝撃を与えた日22 U-2偵察機撃墜事件と米ソ冷戦下のスパイ交換」
ちょっと古い感じもするが、あわせて見るとおもしろい。大物の「アベル大佐」と撃墜されておめおめと捕虜になったへたれパイロットを交換するなんてとんでもない、という意見がアメリカでもあったとか。パワーズは自殺用の毒針を持っていたが、それは使われることなく押収されてスヴェルドロフスクの博物館に展示されている。
※グリニケ橋の交換シーンで場面で引用されている「デッド・シーズン」。そんな映画があったのか、それは見て是非みたいと思って探したらソ連の映画だった(「Мёртвый сезон」1969年ソ連)。
参考文献:
■キリル・ヘンキン著/尾崎浩訳『ソ連のスパイ (1983年)』(新評論)
■オレグ・ペンコフスキー著/フランク・ギブニー編/佐藤亮一訳『ペンコフスキー機密文書 (1966年)』(集英社)
(文庫化されているようだ→『寝返ったソ連軍情報部大佐の遺書 (集英社文庫)』)
■パーヴェル・スドプラトフ/アナトーリー・スドプラトフ著/木村明生監訳『KGB 衝撃の秘密工作〈下〉』(ほるぷ出版)
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