映画「ウイグルから来た少年」
2008年日本/ロシア/カザフスタン
監督:佐野伸寿
キャスト:
アユブ…ラスール・ウルミャロフ
カエサル…カエサル・ドイセハノフ
マーシャ…アナスタシア・ビルツォーバ
中国の新疆ウイグル自治区からカザフスタンに一人で逃れてきたアユブがテロ組織に売られて……と架空のストーリィなのだが、正直、今ひとつピンと来ないし、リアリティーが全くない。
そもそも、アユブが自分の命を自爆テロに捧げる動機が全くわからない。テロ組織に売られたにしても、だ。その辺で「?」となってしまったので、感情移入が全くできなかった。だいたい、なぜ5月9日にアルマトィで自爆テロなのか? 11月12日に、あるいは8月25日辺りにロシアでやるっていうならわからなくもないが、カザフスタンで5月9日って、全く意味不明。カザフスタンの5月9日の祭日って、対独戦勝記念日で休みなんじゃなかったっけ? この監督さん、カザフにも暮らしたことがあるようだし、この辺の歴史に詳しいのなら、テロリストがその日をテロのターゲットにした意味を映画の中に盛り込んでおいてくれると良かった。何しろ、観客であるこちらはこの辺の歴史を詳しく知っているわけでもないので。
それにしても、ウイグル人の非暴力主義を訴えたいのなら、現在のウイグル人を7世紀モンゴル高原の遊牧ウィグルに結びつけるのはやめたらどうか。そもそも名前が同じだけで血から見ても文化・伝統から見ても継承関係は全くないのだから。
それで、アユブはそんな「かわいそうな」ウイグル人で、カエサルは怪しげな外国人と援助交際しているカザフ人不良少年、マーシャは売春婦で「かわいそうな」ロシア人の少女なんだが、なんかこれも妄想の産物というか、妄想といって悪ければ理念的で
「ほら、これがかわいそうな子供たちだよ~」
って感じ。さあ同情しろ、とでも言いたいのか。
妄想といえば、スクール水着の少女が平泳ぎで泳いでいるシーンなんか妄想全開。あんなに髪長い子が帽子もかぶらず束ねもせず泳いだらホラーだろうが。実際、プールであんな風に泳いでいるの見たら汚いだけだぞ。妄想の中では、長い金色の髪が水にたなびいて美しいだろうなあって思うんだろうけれども、水に濡れたら金髪だって暗色になってほぼ貞子だよ。
マーシャの夢の中の話だから妄想でOKって事かもしれないが、マーシャは自分の泳いでいる姿を下後方から見上げるような映像で想像しないと思う。カメラ、食い入るように股間を追ってるもんな~。それ、少女(マーシャ)の目線じゃないだろうよ。
とはいえ、映画冒頭のウイグル文化センター議長のお話やおまけの「カザフスタンのウイグル人(公式サイト上からも見ることができる)」は情報の少ない地域のことなのでためになった。
欲を言えば、「カザフスタンのウィグル人」はせっかくカザフ政府の公式見解のような内容なのだから、カザフ側の考える「カザフ」と「ウィグル」の違いを我々門外漢にわかるように説明してくれると良かった。今はもちろん別の民族とみなされるのだろうが、ソ連邦が結成されて「カザフ人」という民族が形作られていく以前の姿を想像するに、生業の違い(遊牧と農耕といったような)以外にカザフとウィグルの違いって何?ってよくわからないものだから。
(タジクとウズベクの違いのようなもんか?)
その辺りの帰属意識の違いがわかると、東トルキスタン共和国を建国しようとして共闘しつつも解け合うことのなかったウィグルとカザフの間の心の機微を現代の我々が自分のことのように感じる助けともなりそうなのだが。
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