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2010年7月 9日 (金)

映画「ニュースメーカーズ」

ニュースメーカーズ [DVD]
Newsmakers

2009年ロシア/スウェーデン
監督:アンダシュ・バンケ
キャスト:
スミルノフ…アンドレイ・メルズリキン
ゲルマン…イェヴゲーニー・ツィガノフ
カーチャ…マリヤ・マシコヴァ
殺し屋…セルゲイ・ガルマシ
オルダ…アレクセイ・フランデッティ
クレイ…マキシム・コノヴァレフ
ボルディレフ…ユーリィ・シリュコフ

 モスクワ市警のスミルノフ少佐のチームは、もう二年も荒っぽい手口で強盗を繰り返すギャングを追っている。ようやくアジトを突き止め、水も漏らさぬ体制で監視中だった。
 ……そのつもりだった。
 しかし、まさに彼らが強盗に出かけようとしている時に交通警察がのこのこと現れ、彼らを職質したことから、一気に銃撃戦に。市民を巻き込み、スミルノフの部下を射殺し、強盗団は逃走。
 逃走中にたまたま芸能人を取材中のテレビクルーに銃撃戦を撮影され、しかも命乞いする警官の姿まで放映されてしまい、ボルディレフ長官は激怒して全部署の責任者を集めて対策を練る。
 その会議で、逃げた強盗団の逮捕劇を生中継して警察のイメージアップをはかる、という案を提案したのがイェカチェリーナ(カーチャ)・ヴェルビツカヤ大尉。若いし現場を知らないようだし、VAIOとか持っちゃったりしてなんだかオシャレな女性なのに影響力がある理由は、彼女の姓が物語っている。彼女の父親と懇意だったボルディレフは、先端技術っぽくてネット時代にマッチしたようなイメージに幻惑されたのか、彼女の案は採用され、作戦に投入される全特殊部隊員に小型のテレビカメラが取り付けられたのだった。

……これだけでその作戦、絶対酷い結果になるんだぜ、と悪い予感がするのだが、いろいろな意味で予想を裏切ってくれて最後まで
「こうなるんだろ、え? 違うの? そう来るか!」
と目が離せなかった。警察にオフィシャル・ウォーターとか笑える。OMONのごっつい防弾チョッキを着て真っ黒い目出し帽をかぶった厳つい連中が作戦行動中にケータリングの寿司を箸で食ってるとかシュールな絵だ……。

……そもそも最初の張り込みだって同じ警察の中なんだから、部署間の信頼関係ができてて情報交換がなされていたら、交通警察の人だってスミルノフの部下だって死ななかったかもしれないのにさぁ。そういう基礎体力がないところにカーチャの考えるような「頭を使う」緻密な作戦できるかっつーの。
 でも、だからといって日本の警察を能力が高いかのように言及しているボルディレフ長官の台詞には苦笑い。うちらのは自分たちのトップが狙撃されてもその犯人さえ捕まえられない警察なんだぜ。

 スミルノフには、強盗団の居場所を見つけたら、監視だけして後は特殊部隊の到着を待つように指示される。しかし、仲間の一員を殺されているスミルノフが大人しく引き下がるわけがない。巨大な団地で強盗団の切り込み隊長オルダ(人造人間17号似? こいつはいつも同じ風体なのですぐばれる……笑)と出くわしたスミルノフは追わずにはいられないのだった。

……これがまた旧ソ連時代に建てられた画一的で巨大で古ぼけて迷路のような良い雰囲気の団地なんだわ。まさに魔窟。

 ゲルマンを頭とする強盗団は子供二人とその父ユーリィのいる部屋に逃げ込んで三人を人質に取る。
 ところがこの魔窟のような団地の中に潜伏していたのは彼らだけではなかった。特殊部隊が突入してくるとその得体の知れない連中も戦わざるを得なくなり、彼らとOMON、スミルノフのチーム、強盗団が入り乱れての銃撃戦になってしまう。しかもその様子を強盗団の一人クレイが自分の携帯で撮っていて、シューティングゲームさながらの動画をネットに放流したもんだから、カーチャが突入映像を編集してあたかも突入が一定の成果を収めたように見せかけた情報操作も台無しに……。

……それにしても団地住民を避難させるタイミングが随分遅く感じるのは、犯人を逃がさないためなのかもしれないが、それってどうなのよと思わずにはいられない。やっぱりカーチャが場数を踏んでいない視聴率第一主義のヤツだから、そこまで気が回らないって事なのかなぁ? 軽いなぁ、市民の命。
 展開が早いにもかかわらず、登場人物の性格が透けて見える。特に、ソ連崩壊を体験して自分の価値観に揺らぎがあるのか、最初のうちカーチャのやり方を
「これが今風なのかなぁ……?」
とでも思ったのか採用しつつも、特殊部隊の隊員が傷ついて次々と運ばれていく現場に立ちつくし
「いや、いや、違うぞ!」
と思い直すボルディレフの表情の変化が良い感じ。警察の使命はソ連時代も今も何も変わりはないはずだ。

……ちょっと気になったのは、英語から起こしているからだろうが字幕の名前がヘン。カーチャがカティア、ゲルマンがヘルマンと表記されるのはまぁいいとして、ミハイルィチをミハイリヒっていうのはどうかなぁ? スミルノフらが白髪混じりで老眼の年配の刑事をミハイルィチ(ミハイロヴィチ)と父称で呼ぶのは、敬愛の情の表れだろう。日本の刑事物だったらいかりや長介さんあたりが演じる役回りかも。

※原題「ホット・ニュース(ГОРЯЧИЕ НОВОСТИ)」。香港映画「ブレイキング・ニュース」のリメイク。リメイクとは思えないほどなにもかもロシアっぽいんだけどなぁ。

アンドレイ・メルズリキン出演の映画→「ミッション・イン・モスクワ
セルゲイ・ガルマシ出演の映画→「72M」「怒りの戦場 CODE:PIRANHA」「ヤクザガール(仮題)」
イェヴゲーニー・ツィガノフ出演の映画→「ラフマニノフ ある愛の調べ」

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2010年7月 7日 (水)

映画「ザ・コールデスト」

ザ・コールデスト [DVD]

2008年ノルウェイ
監督:マッツ・ステンバーグ
キャスト:
ヤンニケ…イングリッド・ボルゾ・バーダル
カミラ…マルト・スノーレスダッター・ロビック

 「ノルウェイ映画史上もっとも怖い」
といううたい文句に
「え゛……そ、その比較対象はどうなのよ?」
と微苦笑しながらも借りてしまった。←まんまと罠にはまってますね(笑)
 鑑賞後に見た日本語版の予告編、
「最凶の殺人鬼、解・凍」
というB級映画っぽいキャッチコピーにも笑ったが、B級じゃないっすよ。サスペンス的な展開でドキドキさせる正統派ホラーで、グロ苦手な人にも大丈夫、たぶん。……まぁ、身体が思わずビクッ、ビクッと反応しちゃうほど怖いんですけどね。
 でも、爽快感もある。最後に主人公がスノーモービルに跨って殺人鬼との一騎打ちに向かうシーンなんかはかっこよさにほれぼれした。ノルウェイの冬山の峻厳さとノルウェイ語の響きが何ともいい雰囲気を出している。

以下ネタバレ(といっても大したネタバレでもないけど)

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2010年7月 5日 (月)

映画「風の馬」

風の馬 [DVD]

1998年アメリカ
監督:ポール・ワグナー
キャスト:
ドルカ…ダドゥン
ドルジェ…ジェンパ・ケルサン
ドアンピン…リチャード・チャン
エミー…テイジェ・シルバーマン

 歌手を目指して毎日酒場で歌うドルカは、恋人ドアンピンの後押しもあり党の偉いさんに認められていよいよ全国デビューも視野に入ってきた。

 働きもしないで毎日ぶらぶら遊び歩いている(失業率の高さを表しているんだろう)ドルカの兄ドルジェなんかいかにも歌手デビューの際に問題になりそう。母親にぎゃあぎゃあまくしたてられても黙っている人の良さそうな父、漢人嫌いで当局のお達しなど気にせずダライラマの肖像を飾り続ける頑固な祖母、漢人で党員の恋人ドアンピン。
 ドルジェが酒場で知り合いになったアメリカ人エミーを家に連れてきたりして一悶着ありそう……という家庭内のドタバタを描いたホームドラマ風の話。
 しかしそこはチベット。ごく普通の家族の問題が政治問題になっていく。とりわけ、いとこで尼僧になっていたペマが拷問を受けて瀕死の状態で帰ってきてからは、ドルカの心は千々に乱れる。そして最後には一家は密かにラサを去り、徒歩でチベットから脱出しなければならない大事件になってしまう。

 当局に気に入られて、この国にも法と正義があると素朴に信じている人が、自然な人間の情から友人を助けたことがきっかけで「人民の敵」になってしまうという話はソルジェニーツィンの小説にもあったなぁ、と思ったけれど何だったのか思い出せない。政治や宗教に特に関心のない一般の人は、スターリン時代でも大粛正のことに全く気づかずにごく普通に過ごしていたなんて話も聞く。
 ドルカとドルジェの祖父は中国の官憲に殺されている。だからドルジェは中国人が嫌いだし、「中国好き」なドルカも気に入らない。ドルカがドアンピンを自宅に連れてきて家族と引き合わせたとき、祖母が邪険にしたのも同じ理由。しかし、ドアンピンの親族も文化大革命の時に命を落としているのだ。漢人にも良心のある人はいるし、チベット人の中にも冷酷非情な人がいる。

 犯人捜しをして糾弾しようという映画ではない。自分の主張のためにチベットをダシに使っているのでもない。優しい印象の映画だ。出てくる人物は、弱いところもあり良心の呵責も感じるごく普通の人たち。そういう人たちに寄せる深い同情と悲しみが素直に表現されている。

 導入部の映像が恐ろしくきれいでヤクやら山羊やらがはっきりくっきり映っていてびっくりしたが、中の方ではそうでもないのが不思議だった。それはたぶん、ロケ地の差によるものなんだろう。ネパールやチベット(!)でロケしているそうである。

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