映画「風の馬」
1998年アメリカ
監督:ポール・ワグナー
キャスト:
ドルカ…ダドゥン
ドルジェ…ジェンパ・ケルサン
ドアンピン…リチャード・チャン
エミー…テイジェ・シルバーマン
歌手を目指して毎日酒場で歌うドルカは、恋人ドアンピンの後押しもあり党の偉いさんに認められていよいよ全国デビューも視野に入ってきた。
働きもしないで毎日ぶらぶら遊び歩いている(失業率の高さを表しているんだろう)ドルカの兄ドルジェなんかいかにも歌手デビューの際に問題になりそう。母親にぎゃあぎゃあまくしたてられても黙っている人の良さそうな父、漢人嫌いで当局のお達しなど気にせずダライラマの肖像を飾り続ける頑固な祖母、漢人で党員の恋人ドアンピン。
ドルジェが酒場で知り合いになったアメリカ人エミーを家に連れてきたりして一悶着ありそう……という家庭内のドタバタを描いたホームドラマ風の話。
しかしそこはチベット。ごく普通の家族の問題が政治問題になっていく。とりわけ、いとこで尼僧になっていたペマが拷問を受けて瀕死の状態で帰ってきてからは、ドルカの心は千々に乱れる。そして最後には一家は密かにラサを去り、徒歩でチベットから脱出しなければならない大事件になってしまう。
当局に気に入られて、この国にも法と正義があると素朴に信じている人が、自然な人間の情から友人を助けたことがきっかけで「人民の敵」になってしまうという話はソルジェニーツィンの小説にもあったなぁ、と思ったけれど何だったのか思い出せない。政治や宗教に特に関心のない一般の人は、スターリン時代でも大粛正のことに全く気づかずにごく普通に過ごしていたなんて話も聞く。
ドルカとドルジェの祖父は中国の官憲に殺されている。だからドルジェは中国人が嫌いだし、「中国好き」なドルカも気に入らない。ドルカがドアンピンを自宅に連れてきて家族と引き合わせたとき、祖母が邪険にしたのも同じ理由。しかし、ドアンピンの親族も文化大革命の時に命を落としているのだ。漢人にも良心のある人はいるし、チベット人の中にも冷酷非情な人がいる。
犯人捜しをして糾弾しようという映画ではない。自分の主張のためにチベットをダシに使っているのでもない。優しい印象の映画だ。出てくる人物は、弱いところもあり良心の呵責も感じるごく普通の人たち。そういう人たちに寄せる深い同情と悲しみが素直に表現されている。
導入部の映像が恐ろしくきれいでヤクやら山羊やらがはっきりくっきり映っていてびっくりしたが、中の方ではそうでもないのが不思議だった。それはたぶん、ロケ地の差によるものなんだろう。ネパールやチベット(!)でロケしているそうである。
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