【旅】エルミタージュ・『草原の支配者』
今日は張り切って9:00にはホテルを出たが、結構雪が降っている。こんなもんで負けるかぁー!と地下鉄に乗り出かける。
←宮廷広場
結構降ってます
ナポレオン戦争の勝利を記念する古代ローマの戦車の像も霞む
←でも行く
(エルミタージュ入り口)
……とめげずに来たは良いが、開館前についてしまう。
雪降る中待つはめに。でも他にも開館を待っている人たちがいた。何しろ天下のエルミタージュだよ? みんな待ちきれないよね?(←いや、事前に開館時間ぐらい調べろ、という)
←やっと入れたぜ
今日は昨日の経験をふまえ、最初から古代史方向の入り口に直行。ちょっと裏口っぽい雰囲気だけれども「スキタイの黄金文化」解説付きツアーがあるので、こっちから入る人もいることはいる。西洋絵画方面よりはにぎわってないが。
先にオチを行ってしまうと、黄金のオルド(ジョチ=ウルス)もこのくくりに入っているらしく、割と整備されていて、何故か自動解説の端末もある、ここだけ。さすが「黄金の」オルド。優遇されているよな。
で、この端末いじってて気づいたんだけど、イェスンゲ紀功碑がない。そりゃあ、イェスンゲは黄金のオルドの人ではないが……。
一瞬モンゴルに返したのか、と思ったけど、イェスンゲ紀功碑の出土地って今の国境線から言えば、モンゴルじゃなかったような……。どうだったっけ?
それはそれとして。
さっそく11番から。もう本題に入っちゃう。
←もらった地図はこんなになっちゃてるんで部屋番号はここらへんのフロアマップを参照(同じものです)
左下に写っている金の杯がジョチ=ウルスものですな
11は2~3万年前の石器などで、この辺は教科書的に人類の歴史をたどるものだろうと思い、軽く流そうかと思ったが、
12に入ると岩絵の描かれた大きな赤石があって、これはどの部屋も揺るがせにできないぞ、と気を引き締める。でもやはり、ゴビの岩画とは印象が違うね。
前3~3千年紀のもので船やウシ(?)、人、鳥。こういう印象の違いを理屈で説明したのが文化の違いって事なのかな~。
その他には骨で作った釣り針や土器、いわゆる「ヴィーナス」など。
13.
ここにも奇妙な動物の岩画がある。やはりゴビのとは似ていない。アファナシェフ文化など黒海沿岸の文化。
14.
南シベリア、オクネフスキー文化、エニセイ文化など。岩画にはオオカミ、ウシ(サイガっぽくも見える)などの岩画
15.
スキタイ。把手がヤギのフクがある。動物文様の金製品、絵ハガキや本にも取り上げられる有名なもので展覧会でもよく見かけるんだけど、アレ、一つや二つじゃないんだな。ちっこいボタンみたいな金製品を服の全面を覆うくらい大量にくっつけたり、金モールみたいに並べたり。大量生産していたんだろうか?
スキタイの石人君もいた。石人君の年代って、やっぱり石人君の服装できめるんだろうか。
16.
スキタイ。三角形の鏃が特徴的。
17.
スキタイ。前5~4世紀の石人。把手がいろいろな形のフク。馬具など。
ここで閉まっていて18~23には行けなかった。本来何か展示しているんだろうが、オフシーズンのせいか閉まっている部屋、閉鎖されている階段・廊下が結構あって、ダンジョン性が高まっている(笑)。
いったん戻ってもう一方の入り口から入り直す。
24.
大きな12世紀ダシト=イ=キプチャクの石人(キプチャクの石人ですな)がお出迎え。「石人君」というよりは、ロシア語の「カーメンナヤ・バーバ」の方がぴったり来る▽▽型の乳房の描かれた女性の像。その柱の逆側にはモンゴル期っぽいいでたちの石人(立像)があるが、説明がなくてよくわからない。
というか、24、27、33は廊下のような細長い部屋なんだが(たぶん廊下みたい、でなく本当に廊下)、人骨入りなのに割れてるケースがあったり、かなり荒れているような印象がある。梱包材が所狭しと置かれていて、移動か改装をしようとしているような感じ。ホレズムのらくだに乗って狩りをする人の描かれた銀器って、イラン関係で見たことあるような図柄だし、フィン・ウグルの古代の文物やハザールものなど、おもしろそうなものがあるんだけど、ハザールの隣がサルマタイでいいのか等々、時期や地域がバラバラ、展示方法も古い。ハコモノは建てたもののその後手入れしていない田舎の寂れた博物館みたいだ。それはそれで味があるんだけど、おもしろいところを扱っているのに粗末にされてる感じはする。
26.
パズィルィク。
騎乗のオジサンの描かれたフェルトの絨毯、こんなにでかかったのかー!
坊さんみたいなもう一人のオジサンと交互にいくつも並んでる! オッサン、坊さん、オッサン、坊さん、オッサン……ってなんかおかしい。このサイズだと家(モンゴル風に言えばゲル)に使ったんだろうが、大まじめに天幕の外側に掛けてあったんだろうか……。
フェルトがぺたぺたな様子がじっくり見えて良い。
←これですな
護雅夫『遊牧騎馬民族国家 (講談社現代新書 116)』
毛を結んでけばけばを立てた(パイルの)絨毯や、もう少しモコモコ感のあるフェルトの絨毯もある。
棺を安置する丸太小屋の部屋、モンゴルのノヨン=オール(ノインウラ)にもこんなのあったな。
木と革で作った馬装具。馬を鹿にコスプレさせたいほど、鹿が神聖だったのか。
文身のある首領のミイラ。有名なヤツですね。ここで見ると文身はわからないなぁ。
高車の説明に必ず出される高輪の車もここ。車輪って細長い木を丸めてるんだ。
毛付き頭飾り、人面有翼の奇妙な動物のアップリケ、白鳥のフェルト製ぬいぐるみなど。
28.
パズィルィク。
目玉の水晶体までわかる人間の頭部や、馬のミイラ。馬は正装している。馬の豪華な頭飾りがいろいろ展示されている。鹿の頭をくわえるグリフィンってここにあった。くわえられてる鹿の角の枝分かれた先一つ一つがグリフィンの顔になってるのって幻想的だよなぁ。いったいどんな背景があってこんなものが作られたんだろうか。
パズィルィクの鹿っていろいろあるが、鹿石の鹿そのものの形のがあるな。こういうのが鹿石の年代比定に使われてるんだろうな。
猫足テーブルがあってニヤニヤ。猫足ってテーブルの足が猫なんだけど、猫かね?
注ぎ口が何となくちん○を思わせる水差し。たぶん思い過ごし。
29.
トゥエクチンスキー・クルガン。前4~5世紀。
木製のいろいろな動物が格好いい。鷲なんかそのまんま紋章に使えそう。笑い猫(虎って書いてあるけど)がすごく良い表情で欲しくなった。もちろんグリフィンもある。早くミュージアムコピーを作って売り出すんだ!
←ミュージアムショップで売ってた『草原の支配者』という本の裏表紙に笑い猫発見!
30.
アルジャン・クルガン。
復元した服装をした人形あり。こういうのを来てコスプレしたいような気もする。冬のコミケとか暖かそうだぞ。
鏃はスキタイの所にあった断面が正三角形になるのと酷似している。動物をかたどった金製品もスキタイ風。
岩画と鹿石。鹿石はこの前の部屋にあった金などの製品とよく似た格好をした鹿が描かれた平石と、○や線が書かれて人をかたどったと言われる円柱状のものと2タイプある。モンゴルでも両方見た事あるが、同時に出るものなのか?
31.
ハカスの弓を射る人の岩画。この辺はゴビあたりのにも似たのがあった気がする。
ミヌシンスクのデスマスクは、中に本人の頭蓋骨入りなのが展示されている。あの色彩とか容貌は生前の本人を再現してるものなのだろうか。
鹿やヤギのキャップみたいなのは、旗指物の上に付けるものなんだろうな。オオカミのはないな……(笑)。
岩画は怪獣ぽい。プレートなんかの動物は実際の動物を忠実に描いたものが多いのに、こういうのがあるのは不思議。何らかの信仰があったんだろうか。
32.
突厥。石人君がお出迎え。二つともどこかで見たことがある(『アルタイ・シベリア歴史民族資料集成』か?)ヤツだけれども、モノクロだったからこんなしましまの色彩だとはわからなかったなぁ。すてき。
石人君のしているイヤリングと全く同じ形のイヤリングもある。前輪や後輪っていうのかな、鞍の前や後ろに付いている板状のものに描かれている虎や騎乗の人、犬、ウサギ……鳥獣戯画みたいだ。
白樺の樹皮でできた箙の説明に、11世紀~13世紀アルタイやモンゴル時代までは鏃を上にして入れるのが普通だったって書いてあるな。フゥジャコフの本の説明と同じっぽい
鏃も随分大型になってて、スキタイのとは趣が随分異なる。ラメラーアーマーの鉄の薄板やチェーンメイル、鐙の類の鉄製品が多くなってるのはさすが突厥。ベルトの飾りはおなじみのもの。こういうのでコスプレ(以下略)
……この辺で精根尽き果て、カフェで何か喰う! とか言って2階に回ったのに、途中でペンジケントの論文ぽい本を売っているのを見つけて思わず買う。しかも、このルートでカフェに行ったらミュージアムショップを発見。そこでよさげな本があったので、昼食もそこそこに買いに走る。
アホや、このタイミングで買うとは! 超重! これ持って見て回る羽目になるんだぞ、計画性なし!
1.『ペンジケントの寺院とソグドの宗教問題(5~8世紀)』
2.『アララト山麓近傍(展覧会カタログ)』
3.『古代ルーシ』
4.『騎士の間』
5.『エルミタージュの収集品の中の北カフカス・古代スキタイ』
6.『草原の支配者』
7.『エルミタージュのイラン コレクションの形成』はスキャナにかからず(汗)
69.
黄金のオルド(ジュチ・ウルス)。
中国、イラン、ホラーサーン、マムルーク朝からの輸入品の数々。陶器や金銀の器。ブロンズの像が火によるダメージを受けてるってこれまた生々しい。まぁ、ティムールによる攻撃でとは限らんが……。
鐘や十字架が多いのはキリスト教だったからかな。白樺の樹皮に書かれた詩がウィグル文字だったりすると、この辺のアラビア文字って単なる模様に見えてくる……。
一応、ベルケ以降の銀貨はアラビア文字ではあるが、当時の人はどういう風に見てたもんかな。しかも、この部屋に展示されている岩に刻まれた銘文は、ティムールのトクタミシュに対する勝利について書かれていて、それがウィグル文字なんだな。ウラーンゴムの碑文を思わせる字の姿をみると何やら不思議な感じになる。アラビア文字も併記されてはいるが……。
パンフレットにある金の杯、それと似たような形をした銀の杯はここにある。この杯、黄金のオルドを象徴するようなものなんだ? 私らだとパイザの方がモンゴルって感じがするけど、ジュチ・ウルスだとこっちの方がピンと来るって事なのかな?
金器銀器がこんなにたくさん。初期ジュチ家の銀製品って誰が使っていたんでしょうね(キラーン)。妄想すると楽しい。パイザも「スキタイの黄金文化」と同じくくりで飾られているのはそれでいいのか? 一応、機械の説明にはパイザはこれこれのものという解説はされているが……。ともかく本物のパイザを見たー!って興奮。
あと、この辺りにはつきもののベルト飾り一式の中に、バト家のタムガの入った小さな金の金具があり、ルーペで拡大して見られるようになっていた。うわー、これは萌える。ジュチ家じゃなく、バト家ですぞ? 格好ええなぁ! この一事でお話しが一つできてしまいそうな勢いだ。誰か……誰か早く書くんだ!←他力本願
68.
黄金のオルド(ジュチ・ウルス)。
こんなに完全な形の壺とか皿とかが大量に出てるとは……。修復はされているんだろうが、修復可能な程度の壊れ具合だったらいいじゃん。
フョードロフ=ダヴィドフの本ではぱっとしなかったが色も鮮やかだし、いろんな系統のがある。いろんな所から輸入してるのかな? ツァレフ、グリスターン、ソルハトが多いな。セリトレンノエも少しだがある。あとはマジャールとか。マムルーク朝からのインポート品のガラス器も特徴的。猫頭カワイイ。有翼人面牛のブロンズ像は中国の鎮墓獣にこんなのあったなって形。小さいけど。
絹製品は中国から。セリトレンノエからは中国の手鏡もでてるんだ。当時の国際関係からいったら、旧サライ(セリトレンノエ)の方が中国製品がでやすいんだったっけ?
61.
アルメニア語の墓誌銘があるからアルメニアかと油断したら、こっちもジュチ・ウルスなんだよな。ツァレフものもあるがソルハトのが多い。
アルメニアってイルハン国の家来じゃなかったっけ……? それとも、キリキアはイルハン国だけど、大アルメニアはジュチ家のものとか……あの辺の権利関係って複雑そうだよな。クリムだったり……。時代や場所を細かく見てよくよく勉強しないと、よくわからなそうだ。
とにかく、アルメニア文字で書かれててジュチ・ウルスってのは新鮮。
38.
カライ・カフカハ(8~9世紀タジク)出土品、壁画。
青い壁画の部屋。絵柄の印象がウィグルに似てる。そんでまた、双子を育てるオオカミのモチーフってのが謎。
39.
アジナ・テペ(同上)の壁画。供物を捧げる人など。
40.
ペンジケントの壁画。これは有名。
41.
ムグ山。これも有名。
この辺りの線で輪郭書いて中を色塗るって漫画みたいだな。竹の矢筈や生活用品なども。
47.
鳥を手にして石人君が三つ編みっぽい髪を後ろに垂らしている。丸っこい石人君は肉眼ではどんなお顔がちょっとわかりにくい。チュー川、タラス方面から出たもので、ルーン文字が刻まれている石も展示されている。マロフの訳付き。ペンジケントの壁画もあってちょっと雑多な感じがするが、ソグディアナとテュルク世界のつなぎ的な部屋か。
48.
ピャンケントの壁画、出土品。
ソグドの貨幣が見所。ソグドのディフカーンの紋章の入ったやつ。壁画もウリやブドウを食べてるのとか、チェーンメールの人物が平服の人を襲ってるのとか、狩りとかいろいろ。ヤギなどの有角動物の絵柄の入った銀器もある。
49.
ペンジケントの壁画。本当に壁いっぱいの壁画で、いろんな模様の猫(←間違い!虎や豹)がゾウに乗った人と戦ってる。ラインで区切られた下の絵は宴会。炭化した家屋の装飾は、灰で縄をなえっていう昔話を思い出させるくらい見事に残ってる。
50.
ペンジケントの壁画。リボンをなびかせてる人。素焼きの壺や水差し。
51.
前の部屋はこれの予告だったのか……素焼きの土器の類なんだが、オスアリ(ゾロアスター教の納骨器)が展示されてる。骨入り。ソロアスター教では火葬はしないから、骨に肉片とか残ってるはず(キャー)。でも不思議なのは一緒に展示されてるペンジケントの壁画は仏教臭いんだよな……ソグドの宗教ってどうなってるの?
52.
タラス渓谷のケンコリスキー墓地。
トプラクカレ(土の城の意)から出土したホレズムの銀貨や、オスアリなど。
53.
バクトリア。テラコッタやコイン。
54.
アルマトィ近郊から発見された犠牲をのせるお盆。四角くて、縁にはブルドックを思わせる動物が並んでいる。あの雲南の銅鼓を思わせる燭台もここにあった。牛なんかのブロンズも似てる……ような気がする。この地方へのヘレニズムの影響だとの説明あり。
55.
北カフカス。前2千年紀終わり~前千年紀はじめ。
56.
ウラルトゥ(ガルミール・ブルル)。ピオトロフスキーの業績など。
ウラルトゥ・タイプと説明されている鏃は、平たくてハート型を引き延ばしたような形をしている。皿の底に点々で丸く書かれている点字みたいなの、模様かと思ったら楔形文字でやんの。これはびっくり。
57.は織物関係で、服や生活用品を展示している。服を着て埋葬されたミイラがそのままの形で展示ってのもある。
58.59.60.
クバチ(ダゲスタン)の文化。建物の装飾品。読書台など。
62.
グルジア。数々のローマ製品。銀製品が多い。剣やイコンはいかにも古いキリスト教国らしいな。石羊はどこでも同じような形をしているのだな。
63.
突如としてアルメニア正教会が出現したような部屋。ハチカルもあるよ。
62.63.の裏にある部屋には番号が付いてなかったが、エチミアジンのきれいな聖書が展示されている。
今日はサンクト・ペテルブルグに来た目的の大半を果たしてほっとしたし、重い本を担いでホテルに戻って肩が痛かったので、ホテルのカフェ/バー「バルチカ」でビールを飲む。生ビールうまうま。一番小さいの頼んだけど500mlだったわ。
←晩飯はこれ。どうだ美味そうだろう。黒パンでできた壺に入ったグリャーシ、美味かったぞ~。
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コメント
ここが目当てでしたか。まさにウハウハだったようですね。
投稿: 馬頭 | 2011年2月12日 (土) 03時09分
すごく良かったです。コメントありがとうございます。
投稿: 雪豹 | 2011年2月12日 (土) 08時07分