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2011年6月 6日 (月)

映画「フェアウェル さらば、哀しみのスパイ」

2009年フランス
監督:クリスチャン・カリオン
キャスト:
セルゲイ・グリゴリエフ…エミール・クストリッツァ
ピエール・フロマン…ギヨーム・カネ
ジェシカ・フロマン…アレクサンドラ・マリア・ララ
ナターシャ…インゲボルガ・ダプコウナイテ
シューホフ…アレクセイ・ゴルブノフ
フランソワ・ミッテラン…フィリップ・マニャン
ロナルド・レーガン…フレッド・ウォード
ミハイル・ゴルバチョフ…フセヴォロド・シロフスキー

 いわゆる「フェアウェル事件」というのは、まだソ連があった1980年代に起こった実在の事件である。実際の事件の経過はよくわからないのだが、この映画はリアルな再現ではないようだ。そりゃあ、まぁ、現実のプロセスをありのままに再現しようとしたらヤマもオチもないとりとめのない物語になってしまうだろうが。
 特にピエールがらみのあれこれは受け入れがたい。DST(内務省国土監視局、フランスの防諜機関)がフランス国外のもぐらを担当している事が象徴しているように、業界の常識を大きく外れた事件だった、だからこそKGBの裏をかくことができたと言われているとはいえ、映画の中の世界に入っていくことを妨げる程では困る。ピエールは実在の人物というよりは、フェアウェル=グリゴリエフの影、父として夫としての苦悩を形を変えて投影するために置かれた、と考えて何とか我慢できる範囲かな。

 いろいろ懐かしい人が出てくる。
 レーガン大統領がいつも同じ西部劇のワンシーン(もちろん自分が出ているところ)を見ててバカっぽくてかわゆかった。表面はバカっぽくても腹の中ではタヌキオヤジってのもあり得るが、何しろフランス映画だから、単純にアメリカ人を馬鹿にしているだけかも。
 ミッテラン政権(社会党)が共産党から閣僚を迎え入れる、と聞いて「共産主義者」という言葉自体に拒絶反応を示している辺りとか皮肉たっぷりだし、ミッテランから、アメリカがソ連に知られたら最もいやな情報が漏れていると知らされて身もだえしてる様子なんかはなかなか意地悪。でも、そんなふうだから表情豊かで、米仏首脳の中では一番キャラがたってる。

 それに比べるとミッテラン大統領はまともすぎて目立たなかった。むしろ一瞬出てくるゴルバチョフの方が、作品全体のイメージを左右している。社会主義者や共産主義者だったら国内の治安を担当しているDSTともっと感情的なしこりがあっても良さそうだけれど、そのへんはさらっと流されていて、ミッテランがDSTに敵意や疑念を持っていたようには描かれていない。あるいは最初の場面は、DSTから事の重要性を説明された後であって、フランスの国益第一にフェアウェルの案件を扱おうと決意したってところから始まっているのかも知れない。

 ちょっと引っかかったのは字幕で「X部隊」となっているモノ。
 X部隊? なんじゃそら、と思ってしまった。一般的には「Xライン」とか「ラインX」と訳されているKGBの部署だが(KGB第一管理本部にあり、科学技術関係の情報収集を担当)、Xという字面も相まってなんとも胡散臭いイメージになってしまっている。フランス語で「ライン・エックス」と言っている様子なのになぜそのままにしなかったのか。グリゴリエフがこのラインXの海外駐在員全員(合法も非合法も)のリストについてピエールに、
「この情報さえあれば、世界が変わる……」
としきりに言っていると、なんだかグリゴリエフが中二病の痛々しい人に見えてしまった。

 どんなに重要な情報でも、それ一つで世界が変わる、なんてことはあり得ない。映画の中でも、高尚な理想のため私心を捨てて働くフェアウェルが、組織の論理の前に捨て駒にされて命を落とす。そして、グリゴリエフに共感しているピエールから見ればくだらない人間が生命と安全な生活を保障されるという何ともやりきれない結末となっている。

 21世紀の我々は、ソ連がその後どうなったかを知っているから、こういう高邁な自己犠牲が間接的にゴルバチョフを動かしやがて……とかろうじて救いはある。
 しかし、この映画単体から受けるイメージは、ピエールがソ連-フィンランド国境を越えた時の死を身近に感じながら走る真っ白な雪道である。終わりが見えない、逃げ出すこともできない無限の閉塞感。

参考資料:
ティエリ・ウォルトン著 吉田葉菜訳『さらば、KGB―仏ソ情報戦争の内幕(時事通信社1990年)
マルセル・シャレ&ティエリ・ウォルトン著 吉田葉菜訳『影の訪問者(時事通信社1991年)

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2009年 フランス 114分 監督:クリスチャン・カリオン 出演:エミール・クストリッツァ ギョーム・カネ アレクサンドラ・マリア・ララ インゲボルガ・ダプコウナイテ フィリップ・マニャン 東西冷戦末期の1980年代、経済的発展において西側諸国に大きく水をあけられながら、なお閉鎖的な体制を敷く祖国ソ連の現状に絶望したKGBの大物幹部。彼は、息子たちには新鮮で自由な空気を吸わせてやりたいと、国家機密をあえて西側に漏洩することを決意。この彼の行動が遂には1991年...... [続きを読む]

受信: 2011年6月29日 (水) 21時35分

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