映画「バトル・キングダム」
2010年ロシア
監督:ドミートリィ・コロプキン
キャスト:
ヤロスラフ…アレクサンドル・イヴァシケヴィチ
ライダ…スヴェトラーナ・チュイキナ
ハラルド…アレクセイ・クラフチェンコ
チュリロ…ヴァレーリィ・ゾロトゥヒン
ヴェンド…パーヴェル・フルリョフ
主人公のヤロスラフは、キエフ公国のヴラジーミル大公(太陽公)の息子で、幼くして公(クニャージ)としてキエフから北に遠く離れたロストフに派遣されていた。
キエフの支配下にあるとはいっても、ロストフの町から一歩出れば盗賊が人間を掠って奴隷として売り飛ばすなど跳梁跋扈しており、土地の住人もロストフの支配を嫌い貢税(ダーニ)も納めていない。成長したヤロスラフはこの無法地帯に秩序を打ち立てようと従士団やヴァリャーグと呼ばれる傭兵部隊を率いて戦っている。
しかしどうもアルダンという盗賊にはロストフ内部に協力者がいるらしい。あるとき、アルダンと戦い掠われた熊族の娘・ライダを助けるのだが、熊族の領域に踏み込んだヤロスラフは熊族の捕虜になってしまう……。
キリスト教受容直後、11世紀はじめの古代ルーシの物語。
冒頭に歴史背景の解説もあるし、キエフ「公国」が現代の我々の考える「国」とは違うこういうものだ、と映像で見る事ができておもしろかった。ロストフの町なんか、今でもロシアの田舎にこんな作りの家ある~という部分もありつつも、当時の大きな町であるという感じが非常にリアル。古代の深い森の描写も美しい。
ヴァリャーグの傭兵隊長役がアレクセイ・クラフチェンコで、盗賊どもに「ベルゼルクだ!」なんて言われてるのもいかにもって感じだし(笑)。
ヤロスラフやロストフ民が熊族を野蛮人とか言っている箇所では、「熊はおまえだ!」と突っ込みつつ見た(笑)。まぁ、ロシアという概念も民族という概念もない時代の話なので、同じスラヴ系でも町の人から見るとまだ部族的なつながりの残っている人たちはそういう感じなんだろうか。それとも、この熊族の墓地って樹上墓だしシメで先住民呼ばわりしているから、フィン=ウグル系を想定しているんだろうか?
それにしてはこの森の民・熊族の信仰しているのがキリスト教以前の古代ルーシの神々のうち雷霆神ペルーンと並んで有名な家畜神ヴェーレス(ヴォロース)なんだよな。熊族がこの神を祭る神殿には神像はなかったが、すばらしく大きな熊がヴェーレスの化身として現れる。熊を森の主・神と考えるのは何もスラヴ系に限らないけど、やっぱりヴェーレスって聞くとスラヴって感じがする。
この映画のヤロスラフは異教徒に無理矢理キリスト教を押しつけるような人ではなく、人間にはいろいろあってそれで良い、と考えているように描かれているけど、そもそもキエフにあったペルーンやヴェーレスの神像を侮辱して破棄させたのってこの人の父・ヴラジーミル太陽公じゃなかったっけ? ヴェーレスが本当はどんな形をしていたのかよくわからないのは、ヴラジーミル大公が徹底的に破壊し尽くしたからだったような……。
賢明な人は多様性を認めるって辺りはソ連崩壊やらチェチェン紛争の影響であって、実際のヤロスラフまたは年代記に描かれたヤロスラフ・ムードルィ(賢公)とは違っているのかもしれないけれど、古代ルーシの雰囲気を味わえる楽しい映画だった。
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