映画「オルド」
2012年ロシア
監督:アンドレイ・プロシュキン
キャスト:
アレクシー府主教…マクシム・スハーノフ
タイドゥラ…ローザ・ハイルッリナ
ジャーニーベク…インノケンチー・ダカヤロフ
ティーニーベク…アンドレイ・パーニン
ベルディベク…モゲ・オールジャク
イヴァンII世…ヴィターリィ・ハエフ
フェージカ…アレクサンドル・ヤツェンコ
ティメル…フェドト・リヴォフ
モンゴルにせよ、匈奴にせよ突厥にせよ、有能な指導者が現れた時にはあれよあれよという間に広大な帝国が出現する。
しかし、二代め三代め…で早くも帝位を巡って兄弟など近しい身内の間での殺し合いが始まってあっという間に分解していく。
たとえば、イルハン国の内訌、元のアリクブカの乱など身内同士の激しい武力闘争を見れば、遊牧騎馬民族ファンなら誰でも、
「なにやってんだよ、もう…そんなことしてる場合じゃないだろ…」
という歯がゆさをを感じると思う。
この映画は、モンゴルのジョチ・ウルス(黄金のオルド、金帳汗国とも)分解の予兆のような状況を描いていて、必ずしも現実にこういうプロセスであったというわけではないのだろうけれども、実に良くそういう宮廷(オルド)のぐずぐずズブズブした雰囲気が出ていて、
「だめだこりゃあ…」
という何とも残念な気分にさせてくれる。登場人物の一人ティメルが、モスクワに帰るアレクシー府主教に一緒に来るかと問われて、
「オレたちの家はここだ」
と言ってステップに引き返して行くのが救いではあるが、この映画、覚悟して見なければ心が折れる。…まぁ、ロシア側の人なら大丈夫。他人事だから。
ジャーニー(魂の)ベクとティーニー(肉体の)ベクという兄弟の名前が信仰を主題に扱う映画の登場人物に相応しい。アレクシー府主教が病気直しのために呼ばれるって野蛮なヤツらと笑う人もいるかも知れないが、手品師、医師と宗教者の区別がないのは古い時代には普通のことだし、そもそも、キリストや仏陀だって病人をいやしたり奇跡で信者を釣っているではないか。現代だって癌を治すとか放射能を除去するとかを謳い文句にする新興宗教や似非科学を信じ切っている人たちが少なからずいるのだから、人間が宗教に求めているものは今も昔も変わっていないのではないか。
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それにしても、騎馬民族の伝統を具現化したような皇太后タイドゥラ(タイトゥグリー)はよかった。ジャーニーベクとティーニーベクがあまり偉大なハーンに見えないのに比べ、彼女の方が皇帝然としている。ロシア映画のせいか、風貌といい言動といいイヴァン雷帝を連想してしまった。
それでいて、化粧は女の戦闘服(はぁと)みたいな場面もあり、女性主権者としてすごくいい。彼女がサラー(サライ)の都市の生活に批判的で町から離れて天幕で暮らしているあたりも私の心を鷲掴み。
なお、モスクワのクニャジ(公)でイヴァン王子と呼ばれているのは、イヴァンII世ではないかと思ってキャストの所は一応、そうしておいたけれど、イメージ的にはイヴァンI世(カリター)だよなぁ。史実に忠実かどうかは定かではないので、間違ってたらごめんなさい。
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