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2013年2月14日 (木)

映画「オルド」

オルド 黄金の国の魔術師 [DVD]

Ordu001

2012年ロシア
監督:アンドレイ・プロシュキン
キャスト:
アレクシー府主教…マクシム・スハーノフ
タイドゥラ…ローザ・ハイルッリナ
ジャーニーベク…インノケンチー・ダカヤロフ
ティーニーベク…アンドレイ・パーニン
ベルディベク…モゲ・オールジャク
イヴァンII世…ヴィターリィ・ハエフ
フェージカ…アレクサンドル・ヤツェンコ
ティメル…フェドト・リヴォフ

 モンゴルにせよ、匈奴にせよ突厥にせよ、有能な指導者が現れた時にはあれよあれよという間に広大な帝国が出現する。
 しかし、二代め三代め…で早くも帝位を巡って兄弟など近しい身内の間での殺し合いが始まってあっという間に分解していく。
 たとえば、イルハン国の内訌、元のアリクブカの乱など身内同士の激しい武力闘争を見れば、遊牧騎馬民族ファンなら誰でも、
「なにやってんだよ、もう…そんなことしてる場合じゃないだろ…」
という歯がゆさをを感じると思う。

 この映画は、モンゴルのジョチ・ウルス(黄金のオルド、金帳汗国とも)分解の予兆のような状況を描いていて、必ずしも現実にこういうプロセスであったというわけではないのだろうけれども、実に良くそういう宮廷(オルド)のぐずぐずズブズブした雰囲気が出ていて、
「だめだこりゃあ…」
という何とも残念な気分にさせてくれる。登場人物の一人ティメルが、モスクワに帰るアレクシー府主教に一緒に来るかと問われて、
「オレたちの家はここだ」
と言ってステップに引き返して行くのが救いではあるが、この映画、覚悟して見なければ心が折れる。…まぁ、ロシア側の人なら大丈夫。他人事だから。

 ジャーニー(魂の)ベクとティーニー(肉体の)ベクという兄弟の名前が信仰を主題に扱う映画の登場人物に相応しい。アレクシー府主教が病気直しのために呼ばれるって野蛮なヤツらと笑う人もいるかも知れないが、手品師、医師と宗教者の区別がないのは古い時代には普通のことだし、そもそも、キリストや仏陀だって病人をいやしたり奇跡で信者を釣っているではないか。現代だって癌を治すとか放射能を除去するとかを謳い文句にする新興宗教や似非科学を信じ切っている人たちが少なからずいるのだから、人間が宗教に求めているものは今も昔も変わっていないのではないか。

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 それにしても、騎馬民族の伝統を具現化したような皇太后タイドゥラ(タイトゥグリー)はよかった。ジャーニーベクとティーニーベクがあまり偉大なハーンに見えないのに比べ、彼女の方が皇帝然としている。ロシア映画のせいか、風貌といい言動といいイヴァン雷帝を連想してしまった。
 それでいて、化粧は女の戦闘服(はぁと)みたいな場面もあり、女性主権者としてすごくいい。彼女がサラー(サライ)の都市の生活に批判的で町から離れて天幕で暮らしているあたりも私の心を鷲掴み。

 なお、モスクワのクニャジ(公)でイヴァン王子と呼ばれているのは、イヴァンII世ではないかと思ってキャストの所は一応、そうしておいたけれど、イメージ的にはイヴァンI世(カリター)だよなぁ。史実に忠実かどうかは定かではないので、間違ってたらごめんなさい。

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2013年2月 7日 (木)

ドラマ「3デイズ・イン・トレンチ」

3デイズ・イン・トレンチ 砲撃戦線 [DVD]

2011年ロシア
監督:
キャスト:
クラフツォフ…アレクセイ・ヴォロビヨフ
オレーシャ…クセニヤ・スルコヴァ
オレーシャの祖父…ヴラジーミル・ゴスチューヒン
連隊長…アレクセイ・グリシン
コンドラチエフ…ニコライ・イヴァノフ
トカチェンコ…ドミートリィ・クリチコフ
コバラヴァ…ベソ・ガタエフ
ピリペンコ…ヴラジーミル・ヤムネンコ
リュイテリ…キリル・キャロ
フィアルカ…イーゴリ・アルタショノフ
シドロフ…ドミートリィ・ラヴロフ
ベリョースキン…キリル・ブルジヒン
マリコフ…アレクセイ・ダルガ
ホヴラフ…パーヴェル・ガリチ

「突撃ー!」
新任の小隊長が拳銃を手に塹壕から飛び出して敵に向かって一直線。しかし、ヴェテランの部下たちは微動だにせず、半笑いを浮かべてながめている。部下が一人も付いてこないと気付いて、敵味方の塹壕のど真ん中で棒立ちになる小隊長。

 小隊長すなわち主人公のクラフツォフ中尉の初陣はこんな感じ。

 そもそも任地に向かう最初のシーンからして、ひゅうるるる…とギャグマンガのような音を出して爆弾が落っこちてきたと思ったら胴体真っ二つとかブラック過ぎる。

 クラフツォフは、初っぱなからトラックの運転手に若い新任の小隊長の寿命は3日と聞かされ、前任者(着任3日目で死亡)の埋葬の場面に出くわし、
「ここに来て3日目であります!」
なんて他の小隊長がドイツ兵に殺されるのを目の当たりにして、自分も3日で死ぬ運命なんだ、だからこの3日で何か成し遂げてやる、と心に決める。

 ほとんど座学だけで実戦の経験なしと見えるクラフツォフに戦争が始まった初めの頃から戦って生き残ってきている兵士たち…ベリョースキンと呼ぶとなぜか怒るベリョースキン、射撃の名手で普段は大人しい大柄なエストニア人リュイテリ、陽気なグルジア人コバラヴァ、砲撃で家も家族も失って自失状態のシドロフ、怠け者のホヴラフなどなどかなりクセのある連中が素直に従うとも思えないが、どうするの、これ?
 …ピリペンコ軍曹がいい人だし、クラフツォフも戦争が終わったら教育大学に行くなんて言ってるから人をまとめていこうという意志も素質もあるんだろうが。

 等身大のなかなかリアルな戦争ものだと思う。結局はああやって人間同士の肉弾戦になるんだろうなぁ。戦争したいって言う人たちはよほど腕力に自信があって、塹壕から飛び出して銃なんか撃てないほど敵味方が入り乱れて格闘になっても自分が死なない自信があるんだろうね?
 そんな緊迫した戦場でも、膠着状態の時はみんなで茶トラのもふもふ猫にワーシカとか名前を付けてかわいがってる。ほんと猫好きだよねぇ。どんな映画にも出てくるし、YouTubeでも猫動画のかなりの割合がロシア発なんではないかと思われるくらいたくさんあるもんね。

 さて、このドラマの見所でもある砲撃だが、ドイツ軍の砲撃をたとえると「どっかーん、どっかーん」なのに対し、ソ連軍からの砲撃の方は「ドカドカドカドカッ」。味方の砲撃の方がよほど命が危ない。
 ハルハ河会戦(ノモンハン事件)でもソ連軍って随分と誤爆が多いな、味方の砲撃の餌食になるなんて死んでも死にきれないんじゃないの、と思ってたが、それに対する感じ方はこうだったのか、なるほど、と思える箇所が幾つかあり、そういう発見があるという点でもおもしろいドラマだった。

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2013年2月 2日 (土)

映画「三重スパイ」

三重スパイ [DVD]

2004年フランス/イタリア/スペイン/ギリシャ/ロシア
監督:エリック・ロメール
キャスト:
アルシノエ…カテリーナ・ディダスカルー
フョードル…セルジュ・レンコ
マギー…シリル・クレール
ジャニン…アマンダ・ラングレ
アンドレ…エマニュエル・サランジュ

 1936年から1939年のフランス、亡命ロシア人たちの社会。
 ソ連の回し者が自分たちの中にいるんじゃないか?  …と見せかけて実はナチスの手先だったりするんじゃないか? とお互いを疑い探り合う。そういう重苦しい雰囲気をニュース映像で社会主義が躍進するフランスや世界の情勢と絡ませながら、フョードル夫婦等少人数の対話で描いていく。

 主人公のフョードルはトリプル・エージェントだとか情報通とか言われるけれど、22歳で将軍だっただのトゥハチェフスキー粛正後のソ連に招かれただの、自分を大きく見せようとしているただの小物にしか見えなかった。妻のアルシノエに、
「あなたああいったじゃないウソだったの?」
などと問い詰められると言を左右にして言い訳に終始する。それがいかにもほら吹き・詐欺師の言いぐさなんだよなぁ。とうてい複数の陣営を手玉に取ってうまく立ち回っているようには見えない。だから、ああいう結末になったのだと。まぁ、フィクションなので、監督が考えるあの事件の真相はこうだ!ということでしょう。あり得る話だ。とすると、題名は「三重スパイwwwww」という皮肉な意味が込められてるのかもしれない。

 戦争突入の場面でショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番が使われていたので、あれと思って調べたら、そもそもオープニングがショスタコーヴィチだった。映画「呼応計画(Встречный)」のテーマで、1930年代に大ヒットしたそうな。どうもソ連、それもスターリン時代くさい曲だと思った(笑)。

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