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2013年4月25日 (木)

映画「べールィ・チーグル」

「べールィ・チーグル」トレーラー

2012年ロシア
監督:カレン・シャフナザーロフ
音楽:リヒャルト・ワーグナー
キャスト:
ナイジョーノフ…アレクセイ・ヴェルトコフ
フョードトフ…ヴィターリィ・キシェンコ
ジューコフ元帥…ヴァレーリィ・グリシコ
ベルディエフ…ヴィターリィ・ドルジエフ
スミルノフ将軍…ドミートリィ・ブィコフスキー=ロマショフ
ヒトラー…カルル・クランツコウスキ

 大祖国戦争(第二次世界大戦のソ連での呼び名)のとある激しい戦闘の後、一人の戦車兵が大破したT-34の中から助け出された。生き残ったのは彼一人。体表面の90%に火傷を負いながらも奇跡的に一命を取り留め、驚くべき快復力を見せたものの、彼は記憶を失って自分の名前さえも覚えていなかった。戦車の中から発見された(ナーイジェンヌィ)男は、イヴァン・ナイジョーノフという新しい名前と任務を持って前線に帰ってきた。

 任務というのは、「白いティーガー(べールィ・チーグル)」と呼ばれる謎めいた戦車を探す、というものだ。その戦車は忽然と姿を現してソ連の戦車を攻撃する。T-34の砲弾が当たってもはじき返す。そして戦車部隊をやすやすと全滅させると忽然と姿を消すという。

 それはドイツ軍の新兵器なのか、戦車兵たちの恐怖心が見せた幻影なのか。

 ・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆

 この間黒いヤツ(チョールナヤ・アクーラ)をやったので、今度は白いヤツをひとつ(笑)。

 ティーガー、「白い」とあだ名されているけど、少し淡く見えるくらいで本当に白いわけではない。どっちかって言うと、「オバケ戦車」とか「幽霊ティーガー」といった感じなんだろう。ナイジョーノフは「戦車の神様だ」って言ってるけど、神は神でも付喪神とか怨霊で神様になった菅原道真とかの類だよなぁ。
 きっとどこかの配給会社が日本でも上映もしくはDVDにして販売してくれると信じているが、これをどういう邦題に訳すのか興味津々(笑)。

 T-34が爆走する映画は「鬼戦車T-34 (原題:ひばり)」が有名だけれども、あれはドイツに鹵獲された戦車で、砲弾を積んでいなかった。
 この映画では、手で弾をつめて撃つと、戦車内が硝煙でブワッと曇る様子や、砲口に泥土が詰まった事に気付かずに発射して砲身が裂けるシーンなんか非常にリアルというか怖い。

 いや、全体的に戦車乗りが感じているであろう恐怖感……視界が極端に狭いとか、燃え上がったら蒸し焼きとかがリアルすぎるくらいにリアルに描かれていて、そういう恐怖が「白いティーガー」の幻影を生み出したのでは? と自然と思わせる。装甲がクッキーの缶みたいにぺらっぺらにめくれ上がってぶっ壊れているT-34が大量に出てくるのも珍しい。これから戦車乗るよーという兵士は、あんなの見たくないだろう。

 ティーガーを探してぐるぐる回ったり、砲塔をくるくるしているうちに相手の位置がわからなくなり、ハッチを開けておそるおそる外を見回す…。
「どこにもいません」
と言ってハッチを閉めると、その後方に砲口を向けた白いティーガーが! って正にホラー。
 それとか、ナイジョーノフたちが白いティーガーを追って、森を踏み分け、白い霧の中を通り抜けて出たところが無人の廃村で、そこで白いティーガーと一騎打ちになるところなどファンタジーっぽいと言う人もあるかも知れない。
 でも、これは戦車乗りの生の感覚をうまく再現していると思った。記録映像には現れにくい面、戦闘に参加した人の異常心理とでもいうか。

 是非とも、戦争ものが得意なところに日本語版をお願いしたいなぁ、と。

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2013年4月20日 (土)

映画「アフガン」

アフガン

2005年ロシア/フィンランド/ウクライナ
監督:フョードル・ボンダルチュク
キャスト:
リュートィ…アルトゥール・スモリヤニノフ
雀(ヴォロビヨフ)…アレクセイ・チャドフ
巨匠(ジョコンダ)…コンスタンチン・クリュコフ
チュグン…イヴァン・ココリン
リャーバ…ミハイル・エフラノフ
スタス…アルチョーム・ミハルコフ
ピノチェト…ソスラン・フィダロフ
セールィ…イヴァン・ニコラエフ
ディガラ…ミハイル・ポレチェンコフ
ホホル…フョードル・ボンダルチュク
クルバシ…アマドゥ・ママダコフ
白雪姫…イリーナ・ラフマノヴァ

 原題「第9中隊」。日本語版予告編でソ連版「プラトーン 」って言ってるけど絶対ウソ。むしろ「トップガン」だと思った。ただし、アフガニスタン派遣兵だから、最後に光り輝く未来は待ってないヴァージョンで。

 だってさ、鬼軍曹ディガラいい人だよ。訓練生たちは他の教官はまともなのに頭のおかしいのに当たっちゃった、って愚痴っているけど、訓練で優しくしても本人のためにならない。ぬるい考えだと戦場に出たとたん死んじゃったりするわけだし、彼の言ってることはいちいち理にかなっているように聞こえた。さんざん義勇兵を募っておいて、ロクに訓練もしないで武器も行き渡らないまま前線に送り込んだヴォロシーロフやジダーノフの話(レニングラード封鎖)を読んだところだったので、なおさらそう思った。

 三ヶ月の訓練の中にはアフガニスタンの歴史や民族から説き起こす地域住民との接し方の講義もあってなかなかためになった。内容もだが、ソ連・ロシアの東洋学者ってあんな感じだよな、と再認識する意味でも。日本の戦前の雑誌なんかを読んでると偲ばれる当時の満蒙研究の盛況ぶりもこういうことなんだよ。

 厳しい訓練を終え、一人前の兵士として輸送機に乗り込む彼らを見送る鬼軍曹の目にも涙(?)でいい話だな~、となった次のシーン・アフガニスタンに到着するなり思いっきり突き落とすって酷いや。

 後半は航空機爆発だの銃撃戦だの爆撃だの派手なシーンが見どころ。武器の横流しをにおわせるシーンもあるし、理不尽な事を命じる上官もいるけれども、前線の有り様はほぼ理想的で落ち度はない。見張り中に居眠りしちゃった兵士やついうっかり地雷を踏みそうになった兵士にもちゃんと指導していて、良い部隊じゃないの、と思った。

 志願してアフガニスタンに行った人たちの話だし、空挺部隊ということだから、ソ連軍の中でも良い面を描いているんだろう。あるいは、軍は最善を尽くしたんだが、政治家がアホだったとでも言いたいのか。
 でも、軍の中に裏切り者がいたから負けたとか、アメリカがアフガンゲリラに武器を支給したからとか、ああだこうだと言い訳するよりは、アフガニスタンは侵されざる土地だったのだ、正々堂々と戦ったが負けたという方がサバサバして後味はいい。こういう映画があってもいい。

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2013年4月12日 (金)

映画「ダイダロス 希望の大地」

ダイダロス 希望の大地 [DVD]

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2012年カザフスタン
監督:アカン・サタイェフ
キャスト:
サルタイ…アスィルハン・トレポフ
タイマス…アヤン・ウテプベルゲン
コルラン…クラライ・アナルベコヴァ
ゼレ…アリヤ・アヌアルベク
ナザール…トレクテス・メイラモフ
トレ・ビー…ドスハン・ジョルジャクスィノフ
アブールハイル・ハン…ベリク・アイジャノフ
ガルダンツェリン…ツェグミド・ツェレンボルド

 激動の歴史の中で熱い理想に燃えて武器を取り立ち上がる100人の少年少女たち。
 ジューン=ガルとの戦いの中で伝説となったカザフの青年決死隊「ミン・バラ」のリーダー、サルタイを中心に描く青春群像。

 18世紀の前半、勢力の拡大を目論むジューン=ガルがカザフが遊牧する中央アジアに侵入、暴虐の限りを尽くす。目の前で父母を殺されたサルタイは、智者ナザールの指導の下、山中で7年の間ひっそり暮らしていた。
 とはいえ、冒険心あふれる少年のこと、親友のタイマスや幼なじみのコルランと一緒にナザール爺さんの言いつけを破って広々とした草原を馬で駆け回るなどしていた。
 もう子供じゃないと言うサルタイを見かねたナザールは、ラキムジャンの村の新年の祭にサルタイら三人を連れて行くことにする。サルタイはそこで美しい娘ゼレ(ラキムジャンの娘)に会う。
 ところがその祝いの場に突然ジューン=ガルのアユル・バトゥルが現れた。アユルがあたかも主人のように振る舞うのを目の当たりにしてサルタイたちの心は激しく波立つ。ジューン=ガルと戦おうとしないラキムジャンを侮辱して立ち去ったのみならず、ナザールには内緒で三人だけでジューン=ガルの兵士を襲撃するようになる。

 しかし、真っ直ぐな復讐心だけで戦略もビジョンもない山賊まがいの手法はやがて破綻していくのだ…。

Semenovs_footnotes

 「狼の追撃」のアカン・サタイェフ監督がやってくれました。必ずしも格好いいばかりでない「伝説の英雄」の理想と挫折をリアルに描いています。

 至近距離でも弓矢で敵を殺したり、馬に乗って戦う時の武器が柄の長い戦斧だったりと遊牧騎馬民族ならそうだろうなぁ、と納得の描写です。あと、ジューン=ガルは鉄砲を持っているんですが、一発しか撃てないところとか、死体に狐がたかっているとか…もね。芸が細かいというか、隅々まで考証が入っている感触があります。カザフの描くカザフの話なので、普通にやってるだけっていう点もあるんでしょうけれど。

 個人的にツボだったのは、ジューン=ガルのガルダンツェリンが出てきた時、あれ、渡辺篤史? 日本人出てるのぉ? と一瞬思った事。いや、よく見ると違うんですけどね(笑)。そのガルダンツェリンのお言葉を記録する係の人がいて、うわー皇帝かよ、偉そう! って思いました。
 ガルダンツェリン、カザフの仇敵として「レッド・ウォリアー」にも出てきて本当に強力な支配者・征服者だったんでしょうけど、日本じゃいまいちマイナーなので「すげー敵が襲ってきた!」というインパクトに欠けてしまうのは致し方のないところ。チンギス・ハン・クラスの有名人は、世界史上にそんなにたくさんはいません。

それから、 「狼の追撃」で復讐に狂った主人公を演じたベリク・アイジャノフがアブールハイル・ハン役で出てますね(字幕ではアブルカーとなっているが、もちろん誤り)。劇中、アブールハイルは勇ましいこと言ってるけど、
「カザフスタンが独立したのはこの事件から300年後って言うけど、そりゃああんたさんがロシア皇帝に臣従を誓ったせいと違うんかい」
と突っ込みたくて口がむずむずしました(笑)。

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