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2013年11月 8日 (金)

コミックマーケット85に参加します@(火) 西る14b

 群雄堂は12/31(火) 西る14bです。

 黒田官兵衛本も出る予定だそうですので日本史ファンの方もちょいとお立ち寄りいただき、手にとってもらえると良いなぁ。『モンゴル史』も「部族篇2」ともなると、本格的に各部族出身の武将(アミール)のエピソードが出てきて、チンギス=カンが天下を取る前後の下克上っぷりは、日本史の戦国時代ファンにも楽しんでいただけるはず。そのためにも、頑張って仕上げないと!

 それにしても。
モンゴル帝国史研究 正篇』が出た時には「部族篇」部分も大量に翻訳されてるから、これがあればもう充分じゃね?と思い、

読んでる時は、省略されてるところも結構あるんだ……でも、これだけ翻訳されてれば例えば東洋文庫みたいな本になるにはあと一歩……いや半歩もない!と思ったけど、「部族篇2」部分の下訳は既に終わっていたし、今回、自分の翻訳と当該部分をつきあわせてつらつらとながめてみたら、自分の欲しいところ(シベリアの諸民族の生活ぶりとか)はごっそり抜け落ちているし、ケアレスミスと覚しき箇所もあり、

 タタル部族のここ。自分の翻訳文で挙げますが、太字部分が脱落しています。あるいは”(中略)”と入れるべき所なのに忘れちゃったのかも。

>ネライト[タラト]=タタル部族出の者はこの国(イラン)では、敬われ、著名だったという誰彼は知られていない(が)、彼らが多く(一般の)兵の中にいる事は疑いない。しかし、彼らは尊敬されておらず著名でもないので、(彼らは)調査の対象にならなかった。アルチ=タタル部族の出(もまた)、この国には尊敬される者、著名な者、書き留めるに値する者は誰もいない。しかしながら、ヂョチ=ハンのウルスでは、ヂョチの息子バトゥの権威ある妻[正室]でブラクチンという名の者がアルチ=タタル部族出身であった。

 もう一つ。p.638オゲレイ=チェルビ。スニトの御家人に数えてるけど、アルラトの間違いなのでは?(オゲレイ=チェルビは『元朝秘史』によるとボオルチュの弟)
 これは『集史(モンゴル史)』の錯簡とか記憶違いではなく、スニト部族の項の最初の方に、チョルマカンがタマー軍を率いて行った時のこととして、

>これらのアミールたちは他の氏族の出ではあるが、彼らについてはこの部族[スニトのこと]の枝族の中で言及されるであろう。

って断っているのだから、スニトの項にあるからといってスニト出身とは限らないのでは?

間違いかどうかはわからないけど、疑問点が多々あったりとか(下記の例のような)、

p.774 問題のオゴデイの「オルガナは俺の嫁」発言。問答無用でチャガタイに直されていて、まぁ、その方が正しいんでしょうけど、他部族からもらってきた嫁って一族の共通の財産って考え方が残っていてこうなったのかもしれませんよ?

p.786 モンケの妃・オグル=ガイミシュってなってる件。オグル=トゥトミシュの間違いじゃ?

p.691 マングトのジェデイの父殺害の件。「幅広の矢」と訳すべきでは?これは単に大きい矢という漠然とした言い方でなく、近距離対人用のそういう種類の矢、つまり技術用語なのでは?

p.521 タムガチの件。原義は掌印官でしょうけど、毛皮を管理しているのなら、商税(タムガ)を徴収する人なのでは?

p.824 ジョチ=カサルがチンギス=カンの兄と訳されている件。テムジンと同母兄弟ということの表現であって、兄と訳すべきではないのでは?

そして今では、邦訳でどの写本を底本に選ぶかは知らないけど、ロシア語版の底本はタシケント写本でこれが使われることはないだろうから、他ヴァージョンとして参考にするにはちょうどよさそうだし、

訳者ヘタグーロフはイラン系言語を母語とする人だから、その解釈にはきっと耳を傾けるに値する気づきがありそう……等々と考えたのでありました。

 ……そもそも、近々専門家が良い写本を研究して決定版邦訳『モンゴル史』もしくは『集史』を出してくれるんだろう、と思っていましたので、当初からセカンド・オピニオンとして役立てるにはどうしたらよいかと考え、注釈部分も丁寧に訳しました。

 もちろん、『モンゴル帝国史研究 正篇』はよい本ですし、モンゴルヲタ……いやさ騎馬民族を愛するすべての人必読の書ではありますが、論文という性格上、必要箇所だけ切り貼りされているという印象は免れないのであって、それでは平凡社のドーソン『モンゴル帝国史』を読んだ時に感じる「乾き」を完全に癒やすことはできないのです。

「ド素人が何言ってやがるwwwww」
と思った方は、年末にコミケットを訪れ、群雄堂書店の同人誌『モンゴル史』「部族篇2」を手にとっていただき、鬼の勢いでツッコミを入れて楽しんでいただければなによりでございます。

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コメント

タタルのところが興味大アリなので、最初にざっと読んでみたけど、スィンヂャンのモンスタークレーマー(?)っぷりが笑えますね。
こんなのを有力な士と見るとは、ケライトの人も見る目がないのぉ。そのあとクリダイに木端にされているのが胸すきですね。
んでここから後、サルイクの話になってますがクリダイはどうなったのだろう。

ところで、そのあたりでのクリダイのセリフ
「権利、意見のために俺から父祖の行為の形を俺から取り上げたいだけだろう。」
俺が重複してます。斜め読みして気になったところ。

投稿: マルコ | 2013年11月 9日 (土) 10時30分

マルコさん、先日の李克用関連タタル情報、ありがとうございました!
コメントたいへんうれしいです。見直してみます!
タタルは、(「部族篇2」の訳注(笑)にも書きましたが)二一世紀の現在でもタタールを名乗る民族があるように、当時は重要で強大な民族だったはずなのですが、実態がよくわからないのですよね。『使高昌記(西州程記)』に記された状況とも時間差があるようですし。

……あとあれって勇気というか蛮勇ですよね。兵士には必要かもですけど、指揮官・族長が突撃突撃突撃だけだとまずいですよね(え?李克用ディスってませんってば)。

投稿: 雪豹 | 2013年11月 9日 (土) 13時04分

お久しぶりです。唐王朝から李姓を賜るって、劉姓を賜った前趙の劉氏と同じですね。しかし、五代十国時代って五胡十六国より我が国ではスルーされている気がします。

投稿: 雪男 | 2013年11月17日 (日) 16時51分

コメントありがとうございます。
正義対悪っていう単純な図式じゃない上に、史料が多言語で断片的だから、なかなか取りあげにくいのでしょうかね。
中国の史家だと、漢人政権じゃないと疎んじるみたいな風潮もありそうですし。
モンゴル時代には『五代史平話』みたいに遊牧民に好意的な書物もあったそうですけどー。

投稿: 雪豹 | 2013年11月17日 (日) 18時49分

やっぱり言語が一番のネックなんでしょうね。小説『敦煌』で西夏文字は割と知られているけど、契丹文字とか女真文字って全部解読できていないようですしね。

投稿: 雪男 | 2013年11月17日 (日) 19時05分

アラビア語とかペルシャ語とかのイスラム系史料もありますし(もちろん、ウィグル語とかのテュルク系言語も)。それで同じ部族をみんなまちまちな名前で呼んでいたり、全く別の集団を同じ名前で呼んでいたり……。

投稿: 雪豹 | 2013年11月17日 (日) 19時21分

そうか、この時代になると中華北方遊牧民の文献はイスラム世界のものもありますよね。エヴェンキやサハの呼び名よりツングースやヤクートと呼び名のほうがしっくりくる私は頭が古い…。

投稿: 雪男 | 2013年11月17日 (日) 20時19分

そこですよ~、さすが目の付け所がシベリア者。足に特殊な板を括り付けて雪上を高速で滑走する部族とか、彼らの飼っている馬はみな斑(駮馬)とか、どこかで聞いたような話が出てくるのが「部族篇」第二章でして。

投稿: 雪豹 | 2013年11月17日 (日) 21時12分

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